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ダーウィンと謎のX氏[詳細]

アイズリーは告発する。周到に、強い説得力をもって。
被告チャールズ・ダーウィンの容疑は、
自然淘汰に関するエドワード・ブライスのアイデアの無断拝借である。
証拠はブライスによる3篇の試論。
生命は「神の設計」か。
だがブライスの観た事実は、淘汰の考えに肉迫しつつあった。
自らのオリジナリティを重視するあまり、ダーウィンはラマルクを、
そしてウォレス、ブライスをはじめとする多くの先行者たちの貢献を過小評価してしまったらしい。
自然淘汰説は、たった一人の人物の発見などではなく、一種の歴史的必然として生まれてきたのである。


■目次より

編者の前書き ローレン・アイズリーの魅力的な展開 ケネス・ホイアー

Part 1  舞台の踊り手たち
  1章 チャールズ・ダーウィン
     ビーグル号出帆/時の恵み/ガラパゴス諸島/『種の起原』
  2章 アルフレッド・ラッセル・ウォレス
     もう一人の偉大な博物学者/マレー諸島放浪/
     ゴクラクチョウとともに/人類への没頭
  3章 チャールズ・ライエル
     大地質学者のもう一つの顔/知的な勇気による改革/
     地球をめぐる危険な科学/科学の基調を築いた精神
  4章 チャールズ・ダーウィン、エドワード・ブライス、および自然淘汰の理論
     謎の九カ月/悲運の博物学者/奇妙な事実/驚くべき類似/
     種の変化に関して/なぜ、マルサスなのか/自然淘汰/相互の沈黙
  5章 ダーウィン、コールリッジ、および無意識の創造という理論
     創造性の神話
Part 2  証拠の記録 エドワード・ブライスの試論
  1章 動物の変種
     四つの変異区分/変異の明らかな用途
  2章 鳥類における季節的変化およびその他の変化
     自然の体系をつなぐ愛の鎖/種とは、その起源は?
  3章 人間と他の動物との間の心理学的な区別
     動物の本能・人間の感覚/動植物に対する人間の干渉/地球という舞台
Part 3  忘れられた生みの親 ブライス追悼の回想録
  1章 エドワード・ブライス
     インドの自然博物館を創設
Part 4  人類の進化
  1章 ネアンデルタール人と人類古生物学の夜明け
     真の「ミッシング・リンク」とは
  2章 『人間の由来』の知的先駆者
     ダーウィンにとってのヒト/宇宙という機械のもとに/
     『種の起原』以降のパラダイム/偶然性の機械/自然界と人間の位置
  3章 人間の時代
     人類の夢・魔術・科学/心の深淵から立ちのぼる謎/
     稀有で奇妙な獣/暗黒大陸の秘密




■著者紹介:ローレン・アイズリー Loren Eiseley

ソロー、エマソンの系譜を継ぐナチュラリスト。20世紀のアメリカを代表するエッセイスト、詩人として知られる。1907年9月2日、アメリカ・ネブラスカ州に生まれる。画家で巡業芝居の役者だった父と耳の聞こえぬ母のもと、「ひとりっ子」として貧しい家庭に育つ。青年時代には世界恐慌を体験、アメリカ中を旅しながら職を転々とした。やがて学問の道を志し、ペンシルヴァニア大学教授に着任。同大学の学部長、全米人類学会の次長、そして米国科学促進協会の次長およびその科学史部の議長を務め、理系・文系を問わず多くの賞や名誉学位を受ける。著書に『Darwin's Century』『The Immense Journey』『The Unexpected Universe』『夜の国』(工作舎)など多数のエッセイ集がある。享年70歳。没後、傑作エッセイを厳選して一冊にまとめあげたのが『星投げびと』(工作舎)。




■関連図書

星投げびと コスタベルの浜辺から L.アイズリー 2600円
夜の国 心の森羅万象をめぐって L.アイズリー 2500円
ロシアの博物学者たち マルサスぬきの進化論の系譜 D・P・トーデス 3800円
ビュフォンの博物誌 全図版をカラー復刻 荒俣宏=監修 12000円
大博物学者ビュフォン 18世紀フランスの変貌する自然観と科学・文化誌 J・ロジェ 6500円
エラズマス・ダーウィン チャールズの祖父の破天荒な生涯 D・キング=ヘレ 6500円
ダーウィンの花園 植物研究と自然淘汰説 M・アレン 4500円
ダーウィン 世界を変えたナチュラリストの決定版伝記 A・デズモンド+J・ムーア 18000円
ダーウィンの衝撃  文学における進化論 G・ビア 4800円
花の知恵 小さな命の神秘世界 M・メーテルリンク 1600円
蜜蜂の生活 巣の精神に生きる M・メーテルリンク 2200円
白蟻の生活 人間への予言的社会 M・メーテルリンク 1800円
蟻の生活 聖なる生命宇宙 M・メーテルリンク 1900円


■書評

丸谷才一氏(『週刊朝日』1990年4月27日)
「……アイズリーは、進化論の急所である自然淘汰(生存競争の結果、適者は子孫を残し、不適者は滅ぶ)の説はブライスの考え出した説なのに、これをダーウィンは彼の名をあげずに採用した、つまり盗んだと言うのである。
 この推定は説得力がある。どうもダーウィンは黒に近いようである。まず『種の起原』の肝腎のところはブライスの1835年の論文に出ているし、それが載った「博物学雑誌」をダーウィンが読んだ蓋然性はすこぶる高い。しかも彼は、自分が自然淘汰の原理に気づいたのは1831年、たまたまマルサスの『人口論』を読んだときだ、と述べているが、生存競争のきびしさを認識するのに、何もマルサスなど読む必要はなかった。それに彼は、友人あての手紙でマルサスを軽蔑している。ダーウィンはブライスからの借用を隠すため、『人口論』を持ち出したのではないか。
 こういう新説を出してダーウィンを裁く本で、まことに興趣に富む。訳者が解説で言うように、まるで裁判記録のような構成になっていて、特に前半は裁判小説を連想させるおもしろさだ。
 しかしわたしが最も惹かれたのは、個人の創意を証明することがこんなにむずかしいほど、進化論は、19世紀が総がかりで作り出した思想だということであった。思想史の現場に立ち会ったような気にさせる本である。翻訳も科学書にしては上出来」

河合雅雄氏(『朝日新聞』1990年3月11日)
「……読み終わってみると、また別の世界が見えてくる。著者はダーウィンの天才をおとしめようとしているのではない。科学の世界での英雄崇拝のおろかしさ、天才なるが故の人間的な苦悩、独創的発見やアイディアの成立過程、といった暗い精神の地理学に照明をあてた科学史を意図したのだ。天才は無から生ずるのではなく、「先駆者たちの知識と蓄えられた情報…に精神の独創性を付け加え」、「意味をもたない諸事実の間に…合理的なパターンとして関連づける魔法」を理解する人である。ダーウィンこそが、まさにそのような人であった」



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