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回はライプニッツ入門書として、格好の『ライプニッツ術』をご紹介します。ライプニッツを探ろうとすると、広範囲に及ぶ哲学のイロハを知らないと、とてもじゃないが理解できない(…恐るおそるページをめくったりなんかして…)。そのところ、この本、プラトンやデカルトにまで親切にも註がついているし、わかりづらいところは平易な言葉で言い換えられたり、具体例を挙げるなどして、じつに理解しやすくなっている。まぁ!さすが入門書! テツガクの素養のない私のような人間でもライプニッツの魅力を垣間見ることができるという、なんとも懐の深い本なのだ。もちろん、工作舎版『ライプニッツ著作集』やオリジナルテキストから珠玉の引用フレーズもちりばめられ、ライプニッツ愛好家にも納得していただける造り。

そこでライプニッツ著作集の企画構想以来、もう十何年もライプニッツ漬けの編集者十川治江にインタビュー。もちろん私、シムラが話を聞くので超初級の内容となっております。でも難解なことをわかりやすく表現することってとても大切です。(シムラミドリ)




──ずばりその魅力を教えて下さい──

下村寅太郎先生のおっしゃるようにライプニッツは未完成の人だからこそ、面白い。読み手によって発想がどのようにもひろげられるのです。貴女が書店向けの「工作舎NEWS」で引用した黒崎政男さんの言葉があるでしょう。「ある先駆的な哲学者[ライプニッツ]の思想が、ちょうど三百年の年月を経て、現実化する。深い思索に、テクノロジーは三百年かかって追いついたわけである」という。あの朝日新聞の記事の要旨が最近PHP新書となった『デジタルを哲学する──時代のテンポに翻弄される私──』の中では冒頭と本文の2カ所にでてくる。理系と文系の境界がゆらぎ、情報をめぐる環境も激変する今こそ、ライプニッツ的な発想が真価を発揮すると思いますよ。『ライプニッツ術』では、『育つ・学ぶ・癒す脳図鑑21』の冒頭でも引用した「宇宙を映す永遠の生きた鏡」といったイメージのひろがるライプニッツの言葉も精選されて紹介されるので、全10巻のエッセンスが腑に落ちるようになるのでお薦めです。

──ライプニッツ著作集全10巻が気になりつつも手の届かない私にピッタリですね。──

また自分なりの解釈ができるライプニッツというのも魅力的でしょう。マイ・ライプニッツ像が人の数だけ存在してしまうんですもの。

──モナドを簡単に説明して下さい──

「私」としか表現しようのない、誰もが「わたし」と感じているモノ、いやモノではなくてコトドモなのでしょうね。モナドは「単子」と訳されることもあるので、原子などのように誤解されがちですが、物質を細かくしていった先にあるものではないです。

──ズバリ勘違いしていました。というと、この世界はモナドが構成している精神的な世界なのですか?──

「精神」というと人間に限られてしまいそうだけど、「魂」とか「イノチ」までひろがる世界でしょうね。

──ライプニッツのポジティブな世界観というのは、どういったものだったのですか? オプティミズムに対する批判もあったようですが──

ヴォルテールが『カンディード』で、どんなに悲惨な目にあっても「この世は最善」とくり返すパングロス博士を登場させて、徹底的に揶揄した。ライプニッツの哲学はオメデタイ奴のオプティミズムだという見方は、ここからひろまった。ライプニッツ自身は最善の待遇で研究が続けられていたわけでもないし、自分の仕事の実りを味わいつくすこともできなかった。それでも最善の世界の実現に向けて、積極的にかかわり続けたという充実感はあったと思いますよ。最近では『オプティミストは成功する!』なんて本もあるけど、「成功」は300年後かもしれない。





──ライプニッツの思想が今でも色褪せないのはどうしてですか──

  多岐にわたるテーマの本質を的確に論じていたからでしょう。ライプニッツが甦るポイントはいろいろあって、論理学では1900年前後、ラッセルやホワイトヘッドが数学の基礎を論じる際にライプニッツが重要視され、また相前後して時空論ではマッハやアインシュタインがニュートンの絶対空間・絶対時間を批判する際にライプニッツが見直された。

──ニューサイエンス関連書籍の中でも紹介されていますよね?──

そうね。カプラなどがデカルト・ニュートン的世界観に対してライプニッツのシステム論的な世界観の可能性を強調しています。ライプニッツは何度でも甦るということでしょう! 最近では脳科学で、「クオリア」というキーワードのもとに、[赤いバラ]の「赤らしさ」はどうして生まれるのか、ということまで論じられるようになってきた。「わたし」が科学のテーマになるときには、またライプニッツが再認識されるでしょう。

──それはとても興味深いです。最後にこの『ライプニッツ術』をどのように読んでほしいと思われますか?──

『ライプニッツ著作集』第8巻の後に、創文社の『ハイデッガー全集』(全102巻!)の第26巻を訳出された酒井潔さんが『創文』No.444に「あなたの同僚ライプニッツ」という一文を寄せていらっしゃいます。ハイデッガー85歳の誕生日に弟から送られた手紙に記されていた表現だということですが、研究の深さはハイデッガーに遠く及ばなくても、「わたしの同僚」と感じさせる経緯がライプニッツにはたくさん織り込まれている。これまでライプニッツに縁がなかった方も、『ライプニッツ術』でその糸口をつかんでいただければ、『ライプニッツ著作集』第6・7・8・9巻の訳出以来の佐々木能章さんの長きにわたるご苦労も報われることでしょう。

──ありがとうございました。『ライプニッツ著作集』全10巻から『ライプニッツ術』まで、本当にお疲れ様でした。──



[インタビューを終えて…]
ライプニッツのポジティブな見方は誤解されやすく批判されてもいるが、「世界は最善である」というオプティミズムに、私はとても好感をもった。希望があるからこそ建設的に生きていけるのだと思う!!





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