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057 耳蝋
◎うちに猫がいる。(ご存知の方も多いと思うが、8キロのニューハーフのデキャットのボツくんのこと。)最近、耳に怪我をして、なかなか直らない。ときどき膿も出たりして、それを舐めるとものすごく臭い。そして後ろの足で耳を掻くと、黒いモノが部屋中に飛んだりする。まさに「耳のクソ」だ。
耳のクソか。またくだらない話題で、ごめんなさいね。
◎猫の耳のクソが黒ければ、人間の場合、なぜか遺伝子敵に二種類に分かれているそうだ、西洋人とアフリカ人に多い茶色くて軟らかめのタイプ(優性)と東洋人に多い灰色の硬めのタイプ(劣性)。なんの選択的な利点もなさそうだが。
◎それにしても、日本語の「耳のクソ」はすごい表現だな、といつも思う。「耳垢」といっても、耳の中にあるあいだ、別に「汚れ」だけではない。西洋型の方は蝋に似ているから、ヨーロッパの各言葉では「耳蝋」の意味の言葉を使う。たとえば英語では
"earwax" という。油分が多いそんな「蝋」が耳の中にできて、耳を滑らかにしながら、耳に入ってしまった埃や菌などを蝿取り紙のようにキャッチして、ゆっくり外へ運び出してくれる。つまり、「耳蝋」はゴミというより、耳の自動掃除の仕組みの一部なのだ。しかも、あごをいっぱい使うとそのプロセスが少し早くなるらしい。綿棒よりチューインガムの方が効果的かも!
◎入ってしまった物を運び出すことだけではなくて、埃や虫の侵入を防ぐことにもある程度役に立っている。耳に入る虫といえばやっぱりハサミムシ。ヨーロッパでは大昔(古代?)から近代まで、ハサミムシが人間の耳に入って脳の中に卵を産む、というホラー映画みたいなことが一般的に信じられてきた。科学的には何の根拠もなのに、英語ではハサミムシのことを
"earwig" といって、その語源の意味は「耳虫」だということを考えると、その迷信はやっぱり深い。でも実例を聞いたこともないし、万が一、狭いスペースを好むハサミムシが人の耳に入ってしまって、「蝋」にキャッチされなくても、鼓膜を破ることなんてありえないし、ハサミムシが別に脳みそを好んでいるわけでもないから、ご安心ください。
◎でも「寝耳に毒」の例ならある。シェークスピアのハムレットの父(前の王様)はそうやって殺される。だれかの毒舌によるものじゃなくて、ヒヨスのエキスという、文字通りの毒だ。ハムレットが書かれた当時では中耳がエウスタキオ管を通して口腔につながっていることが発見されたばかりなので、そんな殺人の方法を選ぶことによって16世紀の先端科学を取り入れたシェークスピアをほめる論文を見たことがあるが、今ひとつ説得力がない。まず、毒がどうやって鼓膜を超えるのだろう。そしてなんといっても、ハムレットの舞台はエウスタキオ管が発見される数百年前のデンマークだ!(全然関係ないが、スウェーデン語では「エウスタキオ管」を
"örontrumpeten" = 「耳ラッパ」という。キャリントンの耳ラッパと違って、内側にあるわけ!)最近では、イスラエルのスパイ組織のモッサドが1997年の「先端科学」を利用して、「耳に毒」という暗殺方法を復活させようとしたが、失敗したらしい。でもそれはシェークスピアの世界というより、007の世界だ。
◎「耳蝋」がよっぽどたまっていなければ、あまり掃除する必要もないし、むしろ掃除しないほうがいいという。僕も日本に来る前に耳掃除なんてしたことないと思う。でも日本では耳掃除が非常にポピュラーだよね。(お金がある)男性のためなら、高級ソープランドの基本サービスに入っているぐらいだ。なんと、耳掃除+コスプレーが専門のちょっとSMチックな風俗店まであるらしい。(日本のそのへんの想像力にも感心する。)バニーガールのひざまくらで耳を掃除してもらうのも悪くないかもしれないけど、残念ながらまだ試していない。それより、また僕のひざまくらで猫の耳を掃除しなければならない。
(ヤーン・フォルネル)
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