インド科学の発展に貢献『インド科学の父 ボース』
『化学史研究』猪野修治氏書評
『化学史研究』2010年第1号にて猪野修治氏が『インド科学の父 ボース』を書評してくださいました。ボースは、20世紀初頭、マルコーニやニコラ・テスラと相前後して無線装置を発明し、電磁気から植物生理、心や生命の謎を探求しつづけ、インド科学を世界レベルに導いた人物。去年6月に刊行して以来、静かな反響を呼んでいます。
……西洋の科学界でかずかずの栄誉と賞賛を獲得したボースは母国インドにおける科学の普及と教育、ひいてはインド国家の発展のために「ボース研究所」を創設した。このためにボースは自らのほぼすべての財産を投入するのである。そこには、若い時代から「発明や発見で個人的利益を追求しない」と、ボースの信念と決意があったという。インド科学の発展のために私利私欲ではなく、無心に勢力的に貢献した。ボース研究所の開所式の講演で、ボースは、「今日、私は、この研究所をたんなる研究所ではなくて、寺院として捧げます」と、その信念と決意のほどを、確固たる自信に満ちた口調で語っている。インドの科学を西洋並みのレヴェルに引き上げるという悲痛なまでの心情を読み取ることができる。その心情と思想の背景には、アジア人で最初にノーベル文学賞受賞者(1913)の詩人ラビンドラナート・タゴール(1861-1941)たちとの親密な友情と交流が影響しているのだろう。ボースの妻の献身ぶりにも感動する。
出版社(工作舎)の企画と訳者の労によって評者ははじめてインド人科学者の本格的な評伝を読む機会を得ることができた。訳者の新戸雅章氏は日本におけるニコラ・テスラ研究の第一人者の作家・科学史家であるが、華々しい表の世界に登場しない人物を発掘する作業に取り組んでいる。著者のゲデス、主人公のボース、そして新戸氏が時空を超えて共鳴する本書を得て、日本ではほとんど無名であった「インド科学の父」を知ることができるようになったことをともに喜びたい。
