工作舎ロゴ 『書物の灰燼に抗して』


書物の灰燼に抗して

2011.8.13号 図書新聞
 『書物の灰燼に抗して』 郷原佳似氏書評

2011.8.13号 図書新聞に、フランス文学者の郷原佳似氏によるしっかりした書評が掲載されました。

廃墟に踏みとどまる亡命者たち
きわめて正統な手続きを踏んで各々の芸術を歴史のなかに位置づける

…読みながら幾度となく、「世紀末」とか「終末」といった語彙が心中に去来した。そしてそれが、震災後の今という時代の「気分」に合っていたと言えば、不謹慎に思われるだろうか。しかしたとえば、ユートピア思想の流れを辿る文脈で登場する次のような一節を読むとき、そこで語られているのがまさしく「現在」の「われわれ」であることに気づかずにはいられない。「そして現在、つい今しがたまでわれわれを取り囲んでいたのは、分子生物学と核の開発に代表されるテクノロジーが人類によりよき未来を約束するというイデオロギーである」。
…著者の批評家としての琴線に触れるのは、いかなる決定論にも抗して踏みとどまろうとするそうした思想的亡命者、越境者たちである。とはいえ、彼らの立ち位置はあまりにも困難で、多くの者は自己撞着に陥る。著者が彼らを「呪われた眷属」と呼ぶ所以である。…

…四方田犬彦の並外れた点は、このように領域も国境も自在に横断して亡命者たちの跡を追いながら、博覧強記の書き手にありがちなように読者を置きざりにすることがけっしてなく、きわめて正統な手続きを踏んで各々の芸術を歴史のなかに位置づけてゆくことである。「ノスタルジア」にせよ「異形」にせよ、まず始めにその「来歴」が丹念に辿られ、しかる後に初めてその現代的形象が俎上に載せられる。廃墟に踏みとどまる亡命者の強靭さと誠実さは、それを浮き彫りにする著者の筆にも宿っているのである。





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