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9/21付 図書新聞にて、松本夏樹氏『普遍音樂』書評!


巨大な巻貝装置、あるいは言葉を話す像のしかけ
『普遍音楽』273頁、「巨大な巻貝装置」、あるいは「言葉を話す像のしかけ」


巨大な巻貝装置に幻惑されて

壮麗な世界体系に故実珍説を鏤めたキルヒャーの独壇場、
トロンプ・ルイユ式バロック劇場の如き書

いったいあの巨大な巻貝装置が仕込まれた建築図を初めて目にしたのは、澁澤龍彦の『夢の宇宙誌』(1964)であったのか、それともG・R・ホッケの『迷宮としての世界』(種村季弘・矢川澄子訳、1966)であったのかは、今となっては最早定かではない。いずれにせよ半世紀近くも昔のこと、相前後して見たには違いないが、この絵から受ける強烈な幻惑の力は今も相変わらずであり、本書を繙いて先ず探したのもやはりこの挿絵(273頁)であった。J・ゴドウィンの『キルヒャーの世界図鑑』(1986)訳者の川島昭夫も同様に体験をその「あとがき」に記している。

…イエズス会士キルヒャー自身の意図が那辺にあったかは別にして、後期マニエリスム=バロック期の知性は、神への全幅の信仰の時代と、機械=技術進歩信仰の時代の狭間で宙吊りにされていたのであり、懐疑に苛まれる点で同期する時代のわれわれが、「知的不信のための寓意画である」彼の図に幻惑されるのも蓋し当然と言わねばならない。  だがそうであればこそ、有用性とは無縁な遊戯機械(猫オルガン!)、驚異のための驚異にのみ資するとしか見えぬキルヒャーのイメージ群は、われわれの不信と懐疑をも笑い飛ばす「調和と不調和の大いなる術(アルス・マグナ・コンソニ・エト・ディソニ)」として機能するのではないか。 (後略)



【参考資料】:言葉を話す像のしかけ
二つの大きな窓がついた部屋に像を設置する。螺旋状の管は壁または窓を突き抜けて部屋の中に通じ、開口部で像とつながっている。壁などの反対側に適切な発音体があって、それが音を鳴らし始めると、これが反響する。さて、部屋の別の窓から声を出すと、すぐに反響し、螺旋状の管に入り、廻転運動をしながら進み、最後に声は像を生きているようにさせ、全く完全に繰り返すように作られているはずだ。だから、どこから声がするのか誰もわからず、なぜそのようなことが起こるのかもわからないのだ。(『普遍音樂』 第五巻 魔術 第四部 音響の魔術より)



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