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『周期律』
1992年の筒井康隆氏書評


周期律 新装版

昨年10月に新装復刊したプリーモ・レーヴィの『周期律』は、アウシュヴィッツ体験を持つユダヤ系イタリア人作家レーヴィの自伝的短編集。アルゴン、水素、亜鉛、鉄……化学者として歩んできた日々を、周期表の元素とからめて語り、多くの読者を魅了しています。1992年刊行時の書評を改めてご紹介します。

筒井康隆氏(『読売新聞』1992年10月19日)

「……この有名なイタリアの作家のもうひとつの顔は、大学で化学を専攻し、鉱山や薬品会社や塗料の工場で技師として働き、分析を請け負う試験所を自分でやったりもした化学者なのだ。
 第1章の「アルゴン」は先祖及び一族の話である。「怠惰なもの」というギリシャ語の語源を持つ不活性ガスのアルゴンをユダヤ人である自分の一族に結びつけているのである。第2章「水素」から自伝に移り、ここでは友人と一緒にその兄の実験室に忍びこみ、水素を爆発させた思い出が書かれている。以下各章が元素にかかわるそれぞれ異なった工夫の凝らされたエピソードであるが、「鉛」「水銀」「硫黄」「チタン」の四種は創作で、それぞれの短篇が書かれた時期に相当する場所におさまっている。中でも「水銀」は傑作で、名短篇といっていいだろう」


訳者・竹山博英氏もあとがきで、本書の魅力を説明しています。

訳者あとがきより(竹山博英)

「本書『周期律』は、21の短編のすべてに元素の名をつけるという、変わった構成をとっている。レーヴィはそれぞれの元素にまつわる思い出を語りながら、その元素と自分とのかかわりを書いている。彼は一般人が日常生活でその存在すら意識していない様々な物質に、化学者として深くかかわり、そこから常人に持ちえないような考えや意見を引き出し、それを言葉で表現している。彼は物質の世界に詩(ポエジー)を探す化学者であったのだ。…」


多くの人の読み継がれる作品です。この機会にどうぞ。




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