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『俯瞰する知—原島博講義録シリーズ』

巻1「情報の時代を見わたす」発売



『俯瞰する知 巻1』帯付き

「顔学」をはじめ専門を超えて幅広く活躍してきた情報工学者、原島博の講義録シリーズ『俯瞰する知』の巻1「情報の時代を見わたす」が2024年4月23日に発売になりました(Amazonは4月27日発売)。

講義録だけあって、語り口がやさしく、わかりやすいと、好評です。
「鉄腕アトムはなぜ2003年に誕生しなかったのか?」
「日本はなぜコンピュータの分野でアメリカに差をつけられたのか?」
「2001年になぜ宇宙の旅はなかったのか?」
「地球環境問題はなぜ起きたか?」
など、コンピュータや情報に詳しくなくても、つい知りたくなるような内容が満載。
この中から、特に興味深い内容をご紹介します。




■本文より

鉄腕アトムはなぜまだ生まれていないのか
(「第2講 コンピュータの過去・現在・未来を10年単位で俯瞰する」より)

 …最後に本講の冒頭で述べた問題意識に、それなりの答えをだしておきましょう。その一つは、なぜ鉄腕アトムが2003年に生まれなかったかでした。

 1974年に超小型コンピュータが生まれるという手塚治虫の予測はぴったり当たっています。実際に1970年代前半にマイクロプロセッサが登場しています。問題はその後に電子脳がなぜすぐにできなかったかということです。これにはいくつかの理由があるでしょう。それはどんなに小さなコンピュータができても、あるいはどんなに高速のコンピュー タができても、人の脳のしくみがわからなければ、電子的な脳はできないということです。人の脳はそれほど複雑だということです。

 僕は、もう一つ大きな理由があったと思っています。もしかしたらその方が本質だったかもしれません。それは、コンピュータがそのまま脳をめざしていたら、そしてそのために莫大な研究予算がついていて、世界中のコンピュータ科学の研究者がその方向に必死で研究していたら、もしかしたら2003年に鉄腕アトムが生まれていたかもしれないということです。

 しかし、実際は1980年代半ばから、コンピュータは別の道をめざしました。少なくともその時点でめざす方向は鉄腕アトムではなかったのです。その方向の一つがインターネットでした。鉄腕アトムの漫画にはインターネットは登場していません。

 もう一つの問題意識、第五世代コンピュータはなぜうまくいかなかったかについても、すでに述べました。二つの問題意識の答えは同じ意味だったのです。第五世代コンピュータは脳をめざしましたが、その後のコンピュータは社会をめざすようになりました。この大きな流れの変化に日本が取り残されてしまったのです。

 そして社会が情報化され、さらには実世界のすべてのモノがネットワークにつながれてビッグデータの時代になると、それをふたたび活用するために人工知能が注目されるようになりました。1980年代とは環境が大きく変わったのです。この新たな流れにまた取り残されないこと、それがいまの日本に問われています。個人的には悲観的ですが。




■目次

第1講 情報の時代はいかにして到来したのか

1 まずは情報の時代の前史を大急ぎで
2 電気的な手段を用いた情報メディアの発展
3 80年代半ばに情報メディアが融合した
4 その頃、原島研究室では
5 21世紀になって情報メディアは大きく発展した
6 まとめ—いま面白い時代になりつつある

第2講 コンピュータの過去・現在・未来を10年単位で俯瞰する

1 まずは今回の問題意識から
2 コンピュータの誕生と成長—まずは1980年代前半までの歴史
3 コンピュータのパラダイムシフト—80年代と90年代
4 パラダイムシフトは60年代から準備されていた
5 こうしてコンピュータは環境となった
6 21世紀になって情報文化が花開いた
7 人工知能によって情報技術は新たな時代へ
8 まとめ—コンピュータはまだまだ進化する

第3講 コミュニケーション技術の進化を100年単位で俯瞰する

1 まずは今回の問題意識から
2 100年後は予測できるのか
3 19世紀と20世紀を振り返る
4 技術には旬があった
5 なぜ技術の旬があるのか
6 情報革命の時代へ
7 情報革命は歴史にどう位置づけられるのか
8 まとめ—情報の時代は続くのか

第4講 情報文明を1000年単位で歴史に位置づける

1 500年後の歴史書に記されること
2 21世紀のシミュレーション
3 地球環境問題はなぜ起きたか
4 人類の過去の歴史に学ぶ
5 次は宇宙の時代か
6 情報新大陸の可能性
7 情報新大陸にって近代を乗り越えられるのか
8 時代の応急手当ではなく抜本的な体質改善
9 まとめ—ホップ・ステップ・ジャンプで次の時代へ

第5講 情報社会は本当に人を幸せにするのか

1 いつからこのような問題意識を持っていたのか
2 便利さを再検証する
3 ネットは匿顔のコミュニケーション社会
4 メディアが生み出す新たな人類
5 便利で魅力的なメディアは何をもたらすか
6 最後に—優しさの再検証

第6講 情報技術の発展と人類の未来を展望する

1 いまの延長としての発展シナリオ
2 人工知能がもたらすかもしれない近未来
3 近代の延長でない第三の未来シナリオ
4 生活者革命をもたらす情報技術
5 まとめ—人間復興によって新たなルネサンスへ

補講 そもそも情報とは何なのか——改めて考える




■著者紹介:原島 博(はらしま・ひろし)

東京大学名誉教授。2009年3月、東京大学を定年退職。東日本大震災直後の2011年6月から個人講演会として原島塾を毎月開催。人と人の間のコミュニケーションを支える情報工学を専門として、その一つとして顔学にも関心を持つ。
科学と文化・芸術を融合した自分なりの新しい学問体系の構築を夢として、学際的な「ダ・ヴィンチ科学」へ向けた活動を進めた。文化庁メディア芸術祭審査委員長・アート部門主査、グッドデザイン賞(Gマーク)審査員などもつとめた。1945年の終戦の年に東京で生まれる。

主な編著書に、情報理論の教科書として『情報と符号の理論』(共著、岩波講座情報科学4 1983)、『信号解析教科書』(コロナ社 2018)、情報工学関連で『感性情報学』(監修、工作舎 2004)、顔学関連で『顔学への招待』(岩波科学ライブラリー 1998)、『顔の百科事典』(編集委員長、丸善出版 2015)などがある。
原島博 個人ホームページ http://harashima-lab.jp/
HC塾ホームページhttps://hcjuku.wixsite.com/hcjuku







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