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ライプニッツ通信II

第18回 日本ライプニッツ協会第8回大会

銀杏並木が黄金色に色づきはじめた10月19(土)・20(日)日の2日間、没後300周年を記念する日本ライプニッツ協会第8回大会が東京大学本郷キャンパスにて開催されました。

同キャンパスは、かつて山本信先生が教鞭をとり、佐々木能章、米山優、山内志朗、伊豆藏好美、鈴木泉など、いまや日本ライプニッツ協会の理事として次世代を指導する諸先生を導いた縁の深い場所。今回ホスト役の鈴木泉氏は、この2月にもリチャード・アーサー教授の東京講演を実現させた方です(後出)。

◎小雨模様の第1日目は以下の研究発表4件(以下敬称略)
1上野里華(学習院大学)/谷川多佳子司会
 生得観念と感覚──『人間知性論』第1巻を手引に:感覚に注目することで、大陸合理論vs経験論、理性vs経験の図式を越える視座を模索
2寺嶋雅彦(早稲田大学)/長綱啓典司会
 最善世界の完全性はどのように変化するのか──ライプニッツにおける「生物」の観点から:ライプニッツの有機的世界観を「動的最善観」として捉え直す
3藤井良彦/伊豆藏好美司会
 ヤコービ哲学を再構成する──「無矛盾率」をめぐって:ゲーテとも親交のあったヤコービ哲学の一筋縄ではゆかぬ捉えにくさについて
4松田毅(神戸大学)/鈴木泉司会
 ライプニッツの経済哲学試論──自然と規範:『正義の共通概念についての省察』『他人の立場』(第2巻収載)などを引いてライプニッツのリスクに対する「事前警戒」の規範の先見性を示唆

◎秋晴れの第2日目は、工作舎からは『形而上学の可能性を求めて:山本信の哲学』を編集した堤靖彦が参加。以下は彼による報告の要約です。
*昨日に続く研究発表
5大西光弘(立命館大学)/池田真治司会
 ライプニッツとチューリングと深層学習:分析知の窮極の形としての AIで注目を集める深層学習(ディープラーニング)における「重みづけ」(直観知への媒介)の重要性を指摘
6田山令史(佛教大学)/松田毅司会
 モナドの見る都市──射影的空間をめぐって:モナドによる「一にして同一の都市」の表出をめぐり、ピエロ・デッラ・フランチェスカやアルベルティの透視図法論を解説
* 国際ライプニッツ会議報告
阿部倫子・寺島雅彦「第2回博士論文執筆予定者のための研究集会」報告
稲岡大志・長綱啓典「第10会国際ライプニッツ会議と日本ライプニッツ協会主催シンポジウム」報告(「通信」15)
* 新刊紹介
岡部英男・伊豆藏好美・(谷川多佳子補足)▶イヴォン・ベラヴァル『ライプニッツのデカルト批判』下(法政大学出版局)
枝村祥平▶第II期『ライプニッツ著作集』第2巻『法学・神学・歴史学』
* 特別講演
河田直樹「ライプニッツの普遍数学と私の数学観──言葉・無限・連続」
(佐々木能章司会)
『ライプニッツ 普遍数学への旅』(現代数学社)の著者にして人気予備校講師による数学の不思議さと魅力のすべて。稲垣足穂やラマヌジャンも登場して聴衆を魅了。
「こんな(面白い)先生に習っている予備校生が心配になる」という司会者のコメントが会場の笑いを誘いました。

また『ライプニッツ研究』第4号も晴れて上梓。残念ながら今回は研究奨励賞の授賞対象論文はありませんでしたが、この間に来日講演を果たした海外の研究者の論考3編を収載。いずれもライプニッツに関する国際的な研究動向を示す興味深い論考です。

セバスティアン・シュトルク「医学に関するライプニッツの手稿」(2014年学習院大学講演+第6回大会講演)
ポール・ラトー「弁神論というライプニッツのプロジェクト 理論的および実践的争点」(2015年第7回大会講演)
リチャード・アーサー「現代科学の観点から見たライプニッツ」(2016年東京大学講演:「通信」9)

巻末には酒井潔会長による詳細な第10回国際ライプニッツ会議報告を掲載。とりわけ今大会に向けて創設された次世代のライプニッツ研究者育成のための「博士論文VHG賞」の解説は、同氏が審査員のお一人でもあり、第2巻の校正と重なりながら応募論文の審査を進めるご苦労を垣間見ているだけに、印象深いものでした。

受賞者はラ・プラタ大学、グラナダ大学、パリ第4大学でそれぞれ博士号を取得したマリア・グリセルダ・ガイアダ、ラウラ・ヘレーラ、アルノー・ラランの3名。スペイン語版『ライプニッツ著作集』全19巻の刊行がすすむなか、スペイン語圏でのライプニッツ研究の興隆ぶりがうかがえます。

3名の受賞者にそれぞれ2000ユーロの賞金を提供したのは、ニーダーザクセン州最大手の保険会社VHG保険。同社の創立は1750年、ゲオルク二世(ジョージ二世)がライプニッツの提案書(1678)に刺激されたロックム大修道院長G・W・イーベルの提唱で設立した火災保険協会にまで遡るとのことです。

2日目に報告のあった「博士論文執筆予定者のための研究集会」も、ライプニッツ基金により若手研究者の国際交流を支援するもの。今野諒子氏が紹介したとおり(「通信」16)、今回VHG賞を受賞したラウラ・ヘレーラとアルノー・ラランの2氏は、今野氏とともに2011年の同集会に参加した研究者でした。

学者の共和国づくりを夢見たライプニッツの企図は、彼の生前には万全のかたちで実現しませんでしたが、各国の研究者が切磋琢磨を重ねながらより善い方向を模索する歩みは今日もなお着実に続けられています (十川治江)。


ハノーファーのライプニッツ図書館に収められた第I期『ライプニッツ著作集』全10巻
ハノーファーのライプニッツ図書館に収められた第I期『ライプニッツ著作集』全10巻
撮影した稲岡大志氏によると、かなりの頻度で参照されているようすとのこと。
いずれ第II期全3巻も並べられる予定。







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