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『ライプニッツ著作集 第II期 第1巻 哲学書簡』
2015年8月7日付 週刊読書人
金子務氏 書評

ライプニッツ著作集 第II期 第1巻 哲学書簡



高度な思想的討論
ライプニッツ学会(*1)関係者の熱意と能力によって実現した翻訳

 17、18世紀を通じて、ライプニッツほど往復書簡を書き続けた知識人はおるまい。文通相手は16カ国、160都市の1300人、哲学書簡1000通など計2万通に及ぶ。評者(金子)が分析した世界初の学会・ロンドン王立協会事務総長オルデンバーグの通信空間でさえ、その数は遠く及ばない。本哲学書簡は、その学問形成に重要な役割を演じた9人、52通を訳出、監修者や訳者による懇切な解説を配して、読みごたえ十分である。

 まず冒頭の、ライプツィヒ大学時代の信頼する師トマジウスとの書簡からは、20代前半の野心家を突き動かす濃密な反デカルト主義と親アリストテレス主義が浮かぶ。とりわけ研究計画を語る第4書簡が重要だ。…(中略)

…無名のライプニッツがホッブス、スピノザという大家を踏み台として脱皮し、デカルト主義の論敵マルブランシュ、ベールに持論をぶつけるさまは迫力十分。後半の第二部「サロン文化圏」でのお相手は、みな高貴な知的女性である。といって甘い話などない。選定侯妃ゾフィー、プロイセン王妃ゾフィー・シャルロッテ、晩年のロックが寄宿した英国のマサム夫人である。半素人に自説を説き吟味し直しているから、ライプニッツ学入門にもなる。こちらを先に読んでもよい。…(中略)

 この書簡集は、編集者十川氏の執念と入念な作業(巻末の人物・事項索引にも明らか*2)に支えられ、ライプニッツ学会関係者の熱意と能力によって実現した。日本語で、これだけ高度な思想的討論を読めることに感謝したい。私たちは、本書によって、17世紀科学革命期の知の巨人が日常的に格闘する思索と対話の現場に立つことになるのだから。



工作舎編集部注
* 1──正式名称は「日本ライプニッツ協会」。

* 2──索引項目は、人名[著作名]・事項索引とも酒井潔先生が佐々木能章先生のご協力のもとに作成されました。

金子先生、どうもありがとうございました。



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