4月の新刊『文字と書の消息』
17世紀の学者キルヒャーが模写した漢字
4月の新刊は、古賀弘幸著『文字と書の消息 落書きから漢字までの文化誌』。
私たちが日常的に使用している文字には、想像以上に豊かな世界が広がっています。
西夏文字やトンパ文字をはじめとした疑似漢字、近代化には漢字の改良が必須とされ、中国ばかりか日本でも簡略化や新作が試みられていたこと、工事現場ではガムテープで独特の書体が作られています。皮膚に書かれれば入れ墨となり、紙の再利用は敦煌にも残ります。落書きからパフォーマンス書道まで、文字遊びから墨堤の石碑まで、古今東西にわたる文字と書の文化をひもときます。図版多数。
著者の古賀弘幸さんは大東文化大学書道研究所客員研究員。主な企画・編集に『書の総合事典』(柏書房)など。『書のひみつ』(朝日出版社)が2017年初夏に刊行予定。本書は「大東書道」連載を大幅に加筆修正したもの。A5判変型上製、予価 本体3200円、308ページ、4月末刊行予定。表紙は目下作成中。どうぞお楽しみに。
※刊行が5月半ばに遅れます。左:道教の“読めない”漢字/右:頭が「正」、顔が「心」など、漢字の文字遊び
■目次
第一章 文字の場所・文字の風景
【文字の場所】落書きと痕跡
文字を書くことと場所への愛
墨堤、場所の記憶
江戸から東京へ
石碑とスカイツリー
水平の碑
朽ちる碑、摩滅する文字
“文字交換都市”西安
十万年後へのメッセージ
工事現場の文字「修悦(しゅうえつ)体」
【文字の風景】
言語景観
看板を読む
近代上海の言語景観
八破画が描く上海/廃墟の文字/二重のパロディ
乾拓あるいはアーバン・フロッタージュ
【文字と名】
展覧会と書
テクストとしての展覧会/書のタイトル/上田桑鳩「愛」
第二章 漢字、東アジアの歴史を映す
【漢字の改良】西夏(せいか)文字の過剰
「擬似漢字」の系譜
日本の漢字の「改良」
中国の漢字の「改良」
台湾の複雑な漢字
漢字ナショナリズム
金属活字の書体
【漢字のエキゾティシズム】
読めない漢字
道教の文字信仰/漢字らしき文字
アタナシウス・キルヒャーの漢字
ヴィクトル・セガレンの『碑』
セガレンの『碑』の刻印
ざわめく漢字「雑体書」
飛翔する文字「飛白」
第三章 古今東西、文字を遊ぶ
【秘密の文字】にせの文字
新しい世界と文字/文字遊び/徐冰のにせ漢字
秘密の文字・秘密の書写
【消える文字】
文字と〈手〉と〈メ〉の間
宙に書く
「訂正符」と書くこと
見せながら消す/「乙」字の役割/生々しさの痕跡
文字を消す
マジック・メモ
惜字炉・焚字炉
文字の民俗‐敬惜字紙/善会と惜字
【文字と遊ぶ】
仮名の文字遊び
漢字の文字遊び
吉祥文字
文字遊び、言葉遊び、言葉のかたち
回文の不思議
【文字と詩】
カリグラム
新国誠一のコンクリート・ポエトリー
活字とポエジー 171
近代短歌と文字
文字と言葉/非人称の「私」/口語短歌の登場
速記と書
口語と速記/〈声〉と速記
第四章 文字が秘める身体性
【五感の文字】文字を食べる・呑む
マンガのオノマトペ
声と歌と文字
文字にさわる[木活字]
文字にさわる[指先で読む]
文字がたてる音
文字の美・文字の力
文字の靈力
【文字のふるまい】
パフォーマンス書道
「INK ART 墨の芸術」より
漢字の呪縛とアート
内藤絹子「影としての言葉」
洞窟壁画と文字の予兆
【線と言葉】
浅野弥衛「描線の詩学」
ラインズ
線・建築・ダンス
線が書く
【性と文字】
少女たちの文字
出口なおの文字
女文字
第五章 文字とメディア
【皮膚と文字】入れ墨と文字
刺青と身体/文字のメディア「身体」/皮膚に書く意味
【書きつけるもの】
紙の再利用
紙背文書と無数の「重ね書き」
字彫りと書のアウラ
黒板の思想
黒板の機能/メディアとしての黒板
【書物】
杉浦康平のブックデザイン
書物の余白に
俳諧一枚摺
〈場所〉の書・現在の言葉
あとがき
入沢康夫「焦慮のうた」。放射状に並べられ、どのフレーズからでも読むことができる。