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1月の新刊、長谷川 章『黙示録と神の国』



『黙示録と神の国』

1月の新刊は、長谷川章著『黙示録と神の国—西洋文明に伏在する終末思想の系譜』です。

ギリシア哲学からマルクス、トーマス・マン、アドルノまで
混迷する現代世界を読む解く鍵

「ヨハネの黙示録」のテキストの魅力は、
同じヨハネの名を冠した「ヨハネによる福音書」と
比較することにより解釈されるのが常だ。
気品ある慈愛に満ちた「ヨハネによる福音書」に対し、
「ヨハネの黙示録」のテキストには古代ユダヤ教あるいは
キリスト教の世界とあきらかに異質な神話的世界が伏在している。
混沌とした世界の終末を描いた「ヨハネの黙示録」は、
そもそも愛と救済を説いたキリスト教の聖典なのだろうか——本書より

著者の長谷川 章さんは、工作舎から刊行した『桂離宮のブルーノ・タウト─ドイツ・ロマン主義と禅の精神世界』で2024年日本建築学会著作賞受賞するなど、ブルーノ・タウト研究を専門とする建築史家でありながら、隣接する領野にも対象を広げ、『田園都市と千年王国─宗教改革からブルーノ・タウトへ』ではドイツ神秘主義の視座からキリスト教と都市の関係について究明しています。

本書は、ユダヤ教から始まる「神の国」、宗教改革、ワイマール時代のトーマス・マン、アドルノまでの壮大な歴史の中に黙示思想を読み解き、西欧文明を解き明かす書。全1050頁、厚さ6cm、重さ1.5kgもの大著です。

A5判上製、1050頁(カラー24頁含)、定価 本体13,000円+税、1月下旬発売予定。



■目次より

はじめに
カラー口絵

第I部 「神の国」の誕生

 第1章 ユダヤ教の成立
  第1節 ユダヤ教と民族救済思想
   1 古代ユダヤ民族とユダヤ教
  第2節 ユダヤ民族救済と預言者
   1 南北王国時代の預言者たち
   2 バビロニア捕囚時代以降の預言者たち
 第2章 キリスト教の成立
  第1節 原始キリスト教の誕生:普遍救済思想
   1 ユダヤ教から原始キリスト教へ
   2 原始キリスト教
  第2節 原始キリスト教からキリスト教へ
   1 パウロがつくり上げたキリスト教
  第3節 キリスト教とギリシア哲学
   1 ギリシア哲学とヘブライの世界
   2 ギリシア哲学とキリスト教の融合
   3 ギリシア教父のキリスト教受容
   4 ストア派とキリスト教
   5 ローマ帝国の中のキリスト教
   6 聖アウグスティヌスと新プラトニズム
   7 中世スコラ哲学とキリスト教
 第3章 聖書:記述された「神の国」
  第1節 『旧約聖書』
   1 『旧約聖書』の編纂
   2 聖書の二重構造
   3 「創世記」における相違
   4 セム族の宗教
  第2節 『新約聖書』
   1 『新約聖書』の編纂
   2 誤訳された聖書
   3 写本
   4 ラテン語聖書
  第3節 「神の国」が持つ意味
   1 聖書における倫理観
   2 記憶の中の歴史

第II部 描かれた「神の国」

 第1章 「神の国」と昇天文学
  第1節 霊魂観と救済思想
   1 ギリシア人の霊魂観
  第2節 昇天文学と「神の国」
   1 昇天文学の世界
   2 昇天文学の系譜
   3 昇天文学の中の「神の国」
  第3節 聖アウグスティヌスの「神の国」
   1 聖アウグスティヌス『神の国』
   2 「神の国」と「地の国」の思想
 第2章 千年王国思と「神の国」
  第1節 終末思想と千年王国思想
   1 千年王国思想とキリスト教
   2 前千年王国思想と後千年王国思想
  第2節 終末思想と千年の恐怖
   1 終末思想の系譜
   2 千年紀と終末思想
   3 終末はいつくるのか
   4 世界の終末への恐怖
  第3節 重層化する聖書の時間
   1 キリスト教の新しい時間
   2 聖書の中の時間
   3 重層する時間
 第3章 描かれた「神の国」
  第1節 黙示文学と「神の国」
   1 黙示文学の誕生
   2 キリスト教における黙示録の意味
   3 「ヨハネの黙示録」の誕生
   4 「ヨハネの黙示録」と「神の国」
   5 『旧約聖書』の中の「神の国」
  第2節 黙示録の写本のダイナミズム
   1 黙示録の写本
   2 ベアトゥスの黙示録と「神の国」
   3 ビンゲンのヒルデガルトの「神の国」
   4 デューラーの木版画『黙示録』
  第3節 つくられた「神の国」
   1 新イェルサレムと「神の国」
   2 地図の中の「神の国」
   3 つくられたイェルサレム
   4 ドイツの中世都市と「神の国」

第III部 「第三の国」とフィオーレのヨアキム

 第1章 聖ベネディクトゥスと修道院の時代
  第1節 修道院と「神の国」
   1 修道院の時代
  第2節 「聖ベネディクトゥス戒律」
   1 修道院と戒律
   2 フランシスコ会聖霊派
 第2章 フィオーレのヨアキムと「神の国」
  第1節 フィオーレのヨアキムと「第三の時代」
   1 フィオーレのヨアキムの能動的歴史観
   2 「第三の時代」と「神の国」
   3 フィオーレのヨアキムの思想の影響
 第3章 近代におけるヨアキムの終末思想
  第1節 世俗化されたヨアキムの「第三の時代」
   1 18世紀における「第三の時代」
   2 19世紀における「第三の国」

第IV部 宗教改革と黙示録の思想

 第1章 マルティン・ルターと宗教改革
  第1節 宗教改革前夜と異端
   1 ローマ・カトリック教会への批判
   2 ゲルマン民族とアリウス派
   3 ヴァルド派
   4 サヴォナローラと「神の国」
  第2節 ルターの宗教改革と「神の国」
   1 プロテスタンティズムの誕生
   2 言葉の宗教と内面化
   3 世俗化された「神の国」
  第3節 反ルター派と終末思想
   1 トマス・ミュンツアーと再洗礼派
   2 ドイツ敬虔主義と黙示思想
  第4節 ネーデルラントの「新しい敬虔」
   1 ネーデルラントの「新しい敬虔」
   2 ボス『悦楽の園』
 第2章 聖書に描かれた「神の国」
  第1節 聖書の中の「神の国」
   1 『旧約聖書』の中の「神の国」
   2 「死海文書」の中の「神の国」
  第2節 フェリペⅡ世の「神の国」
   1 フェリペⅡ世と『エゼキエル書註解』
   2 フェリペⅡ世の「神の国」
  第3節 コロンブスの「神の国」アメリカ
   1 ユダヤ人コロンブス
   2 コロンブスの黙示思想

第V部 「神の国」アメリカ

 第1章 ピューリタン革命と千年王国思想
  第1節 17世紀イングランドの黙示思想
   1 千年王国思想の復活と聖書研究
   2 ピューリタン革命と千年王国思想
  第2節 世俗化された千年王国思想
   1 会衆派と千年王国思想
   2 カルヴァンの千年王国思想
   3 トマス・ホッブズと千年王国思想
  第3節 文学の中のプロテスタンティズム
   1 文学におけるピューリタニズム
 第2章 実現された黙示録の「神の国」
  第1節 「神の国」としての新大陸アメリカ
   1 新大陸アメリカと千年王国思想
   2 新大陸移民の背景の政治と思想
  第2節 「神の国」ニューヘイヴン
   1 イングランド会衆派とネーデルラント独立派教会
   2 「神の国」ニューヘイヴンの誕生
  第3節 オーストリアとスイスのルター派の「エデンの園」
   1 オーストリアの移民の都市エーベネザー
   2 スイスの移民の都市「エデン」
  第4節 ドイツ敬虔主義の「神の国」
   1 ラップ主義者の「神の国」ニューハーモニーの誕生
   2 ヘルンフート派の「神の国」
   3 ヘルンフート派の「神の国」
  第5節 モルモン教徒の「神の国」
   1 モルモン教徒の理想都市ナヴー

第VI部 世紀末ヨーロッパの終末思想

 1章 世紀末のドイツ神学と終末思想
  第1節 世紀末に至るドイツの終末思想
   1 18世紀啓蒙主義の時代の終末思想
   2 19世紀ネオ・ロマン主義の時代の終末思想
  第2節 ドイツ・プロテスタンティズムと歴史主義神学
   1 文化プロテスタンティズムと宗教史学派
   2 ドイツ宗教史学派
   3 徹底的終末思想における「神の国」
   4 文化人類学とキリスト教
  第3節 ドイツ観念論と終末思想
   1 ドイツ自由主義神学の系譜
   2 ドイツ観念論と終末思想
 第2章 ロシア・シンボリズムと終末思想
  第1節 ロシア精神史とドイツ観念論
   1 ロシア正教会とキリスト教
  第2節 ロシア世紀末と終末思想
   1 ロシア近代と「銀の時代」
  第3節 ロシア・シンボリズムと「銀の時代」
   1 ペテルブルクのシンボリストたち
   2 モスクワのシンボリストたち
  第4節 メレシコフスキーの終末思想
   1 ペテルブルクのメレシコフスキー
   2 メレシコフスキーと「第三の聖書」
  第5節 ロシア・シンボリズムと神秘主義思想
   1 ロシア・シンボリズムと終末思想
   2 ロシア・シンボリズムと神秘主義
   3 ロシア・シンボリズムと「金の時代」

第VII部 ワイマール時代のユダヤ系知識人

 第1章 ワイマール時代の黙示思想
  第1節 ワイマール共和国と終末思想
   1 第一次世界大戦とドイツ精神世界
   2 第一次世界大戦後のドイツ社会学
  第2節 ワイマール共和国時代のドイツ神学
   1 ルドルフ・ブルトマンの聖書研究
   2 反歴史主義のドイツ神学
   3 第二次世界大戦後の再歴史主義神学
 第2章 ヨーロッパのユダヤ系知識人
  第1節 ユダヤ人の歴史と苦悩
   1 ヨーロッパの中のユダヤ人
   2 ハスカラー運動とユダヤ主義
   3 ユダヤ系知識人の苦悩
  第2節 ベンヤミン『ドイツ悲劇の根源』と黙示思想
   1 アレゴリーと聖書
   2 ベンヤミンのアレゴリーと黙示思想
   3 ドイツ・バロック文学
  第3節 ユダヤ系知識人とメシアニズム
   1 暴力的破壊思想としてのメシアニズム
   2 ユダヤ系知識人と革命思想

第VIII部 ワイマール時代の黙示芸術

 第1章 ドイツ・モダニズムと黙示思想
  第1節 第一次世界大戦後におけるドイツ芸術
   1 近代へ生き延びたドイツ終末思想
   2 ドイツ表現主義と黙示思想
  第2節 ドイツ文学における黙示思想
   1 詩人たちの中の黙示思想
   2 デーブリーンの黙示録
  第3節 『メトロポリス』と黙示思想
   1 ワイマール共和国と表現主義映画
   2 ラング『メトロポリス』
   3 黙示映画『メトロポリス』
   4 黙示録の中の『メトロポリス』
 第2章 トーマス・マンと黙示思想
  第1節 ユダヤ人トーマス・マン
   1 トーマス・マンはユダヤ人か
  第2節 トーマス・マンの政治思想と「第三の国」
   1 第一次世界大戦前の精神世界
   2 『非政治的人間の考察』とドイツ的本質
   3 『ドイツ共和国について』
   4 メラー・ファン・デン・ブルック『第三帝国』
  第3節 トーマス・マン『魔の山』と黙示思想
   1 トーマス・マン『魔の山』
   2 『魔の山』とロシア文学
   3 『魔の山』の中の黙示思想
  第4節 トーマス・マンと『ファウストゥス博士』
   1 『ファウストゥス博士』と黙示思想
   2 『ファウストゥス博士』と音楽
 第3章 アドルノの否定弁証法
  第1節 トーマス・マンとアドルノの出会い
   1 アメリカのトーマス・マン
   2 『ファウストゥス博士』の中の音楽論
  第2節 シェーンベルクの十二音技法
   1 ユダヤ人シェーンベルクと黙示思想
   2 十二音技法の歴史その思想
   3 カンディンスキーとの出会い
  第3節 アドルノの音楽哲学
   1 ユダヤ人アドルノとシェーンベルク
   2 破局の美学
   3 音楽哲学と社会学
   4 否定弁証法とユダヤ黙示思想

索引
終わりに


■著者紹介:長谷川 章((はせがわ・あきら)

1954年東京生まれ。建築史家(ドイツ近代建築)。 早稲田大学大学院修士過程修了。坂倉建築研究所勤務。アーヘン工科大学(DAAD西ドイツ政府所給費留学)。工学博士(早稲田大学)。大学勤務。
『ブルーノ・タウト研究』(ブリュッケ、2017)により2019年日本建築学会著作賞受賞。『桂離宮のブルーノ・タウト─ドイツ・ロマン主義と禅の精神世界』(工作舎、2022) により2024年日本建築学会著作賞受賞。その他の主な著書に『ドイツ表現主義の建築』(鹿島出版会、1989)、『世紀末の都市と身体』(ブリュッケ、2000)、『芸術と民族主義』(ブリュッケ、2008)、『分離派建築会』(共著、京都大学学術出版会、2020)、『田園都市と千年王国─宗教改革からブルーノ・タウトへ』(工作舎、2021)などがある。また建築設計では「横浜人形の家」(商業環境デザイン大賞、神奈川県建築コンクール優秀賞受賞、1986年)、「渋谷東急百貨店東横店」(北米照明学会特別表彰受賞、1988)がある。







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