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ブロッケン山の妖魔[詳細]

目次著者紹介関連図書書評


…彗星のごとく輝いたモダニズム文学の全容…

久野豊彦の文学は天才の文学であって、
その前の稲垣足穂やその後の三島由紀夫の文学と
一味通じるものがある(イデオロギーや生活態度は別)
久野のような作家は、もう二度と出るのをのぞむべくもない。
このような文学と作家を育てられなかった日本の文学界は、
砂漠の涸れ川のように、やせ枯れていて寒々しく貧しい。

-----------龍膽寺雄



■目次より

1 ブロッケン山の妖魔(短編小説)
1 ブロッケン山の妖魔
2 靴
3 徒然草一巻 測候所見積書
4 黴の生えたレンズ
5 李大石
6 虎に化ける
7 植物の心臓について
8 司祭ワイエルストラッス----これは、数学の大家のワイエルストラッス氏ではない。
9 シャッポで男をふせた女の話 大用現前不存規則----

album 1 久野豊彦の幼年時代

2 猫の耳(詩・言葉とタイポグラフィの冒険・掌編)
1 猫の耳
2 乳房
3 蟻
4 ひる過ぎて…
5 人道主義…
6 われら及神の耳
7 満月の島
8 フロック・コオトの男
9 海底の鼻眼鏡
10 怪談
11 色合戦
12 虎が湯婆をかかえている
13 足のない水泳選手
14 時間

album 2 文学者・久野豊彦

3 連想の暴風(芸術論・エッセイ)
1 連想の暴風
2 兜町と文学
3 新宿新風景
4 萬年筆
5 動いて仕方ない
6 ポオル・モオランから私へ
7 ジャン・コクトオの手袋
8 ミチオ・イトウのこと
9 満月吟花
10 中河与一氏は本当に青年紳士である!
11 天真爛漫・龍膽寺雄

4 私の履歴書(自伝・追悼文)
1 私の履歴書
2 久野豊彦君を懐かしむ 守屋謙二
3 久野豊彦の記憶 中河与一
4 久野豊彦の思い出 龍膽寺雄
5 久野豊彦 X・Y・Z
6 海もまた…

album 3 久野豊彦の風景

album 4 晩年の久野豊彦

5 解説 嶋田 厚

久野豊彦年譜
単行本目次一覧
初出一覧



■著者紹介:久野豊彦 (くの・とよひこ)

1896(明治29)年9月12日生まれ。1923(大正12)年、慶應義塾大学経済学部卒業後、同人雑誌『葡萄園』につぎつぎに実験的な作品を発表。横光利一とならぶ「新感覚的表現」として川端康成に評価され、注目を浴びる。
大正末から昭和初頭にかけて文壇・論壇で活躍。短編集『第二のレエニン』『連想の暴風』『ボール紙の皇帝万歳』、評論集『新芸術とダグラスイズム』『新社会派文学』(浅原六朗と共著)を刊行。
1932(昭和7)年、『時事新報』に連載した長編経済小説『人生特急』は単行本刊行後直ちに発禁処分となる。また龍膽寺雄、吉行エイスケらとともに「新社会派」の実験活動の一環として「レッド・アンド・ブルー・クラブ」を創立し、兜町進出をこころみる。
しだいに文壇から遠ざかり、日本大学教授をへて1944(昭和19)年には知多半島大野町に隠棲。晩年は名古屋商科大学教授として図書館長、商学科長を歴任。1971(昭和46)年1月26日没。




■関連図書(表示価格は税別)

  • 人間人形時代 穴のあいたタルホ・ブック  稲垣足穂 2200円 
  • カバンのなかの月夜  北園克衛 国書刊行会 3800円 
  • 吉行エイスケ---作品と世界  吉行和子 国書刊行会 1600円



  • ■書評

    北村薫氏と宮部みゆき氏(『名短篇ほりだしもの』解説対談より/ちくま文庫)
    北村薫 久野豊彦さんは私と微妙に縁があるんです。父が慶應大学の予科にいた頃、『葡萄園』という同人雑誌に入っていて、それを作ったのが久野豊彦です。
    「虎に化ける」は、当時分けがわからないと言われた。飛んでいるんですよ。そこが一つの特徴です。この人は新興芸術派の代表選手の一人といわれています。…まさに当時生まれた、古賀春江の前衛絵画などを連想させる。そういう意味で面白いと思います。紅い豆自転車に乗って、脚の長い不思議な女が出てくるとか。

    中村びわ氏 (bk1 2003.11.2) ★★★★★
    美しさ、見事さ、不思議さ、新鮮さ、奇態さ…などなど、ここにまとめられた久野文学の特質を説明していこうとするのは至極簡単なことである。なぜなら、「久野豊彦傑作選」と銘打たれた本書には、氏の作品の精髄が結集されているばかりではなく、微に入り細をうがった編者による解説や、作品を偏愛した読み手たちによる追悼文が一緒に収められており、そこから適切な記述を抜粋してくれば事足りるからだ。
    また、「連想の爆風」と題がつけられたエッセイには、氏の芸術論が披瀝されている。芸術かくあるべしという規範が、実作と共に並べられているわけだから、その短文からエッセンスを抽出してみれば遺漏なき作品論が出来上がってしまう。……
    内容に加えて、杉浦康平ファミリーの旗手による造本は、ここまでやるかという凝りようで、本文フォーマットの多彩ぶりを眺めているだけでぞくぞくしてくる蔵書の悦びがある。カバーだけでも、指先で細部を確認しながら撫でまわし、優に数十分は楽しめる。そこにあるタイポグラフィが本文の内容に連動しているから。……
    bk1サイト全文へ >>>

    荒俣宏氏(『朝日新聞』2003.8.17 「夏の読書特集・妖しい本の座談会」)
    変な小説ばかりで江戸の戯作にも似ている。新感覚派だから稲垣足穂に似ているけど、もっとしゃれている。お薦めは「虎に化ける」という妙な話」

    赤星潤三郎氏(WEB [Black Comet Club] )
    久野さんの小説って「文章だけでしか味わえない世界」なんじゃないかしら。……動いちゃったらとたんに色あせてしまいそうな気がする。文学が文学として楽しめるというような? 言葉の断片が僕たちに連想するようにうがなしている。

    東雅夫氏(『幻想文学』No.69 2003.7月)
    ……久野豊彦がかくも理想的な形で復権を果たしたことは嘉すべきであるが、まだまだ埋もれた逸材は少なくない。本書の解説で、編者の嶋田氏も言及されているように、最近、若い読者の間に、モダニズムの文学に対する隔世遺伝的共感が萌しつつあるのは注目すべき傾向といえよう。  
    いつの世にも、桜をかざして歩もうとする人々は存在し、泡沫にも似たその営為を起爆剤として、幻想と怪奇の文学は新たなるステージを切り拓いてきたのである。おそらくは、これからも──

    千葉康樹氏(『recoreco』vol.7 2003.7月、メタローグ)
    ……奇想が並び、荒唐無稽な展開と、超現実的な官能が横溢する。無重力空間で気ままにブラウン運動している言葉たちを見るようで、温度ゼロのイメージの乱舞が、現実の真夏の暑さとは別天地に運んでくれる。鈴木一誌氏のブックデザインも素晴らしい。

    『文芸中部』No.63 「小特集・久野豊彦」(2003.7月)
    *父・久野豊彦 シュライバー・絲子(談)
    「勘がするどく、なにごともすぐ見通してしまう人でした。こわいくらいでした。だからうそはいえません。ところが父自身はうそをいいました。虚言癖というのでしょうか、しょっちゅうですから、娘として信用できないと思ったものです」
    *傑作選を編み終えて 嶋田厚
    *久野豊彦先生思い出断片 伊藤弥
    *久野豊彦年譜 三田村博史

    芸術新潮(2003.6月号書評)
    「彼女の耳は、世界のクエスチョン・マアクである。彼女の鼻の穴は、瓦斯タンクである。彼女の顔の輪郭は、三角形の大破片である」──ドイツの霊峰に現れる奇怪な大入道をめぐる奇譚「ブロッケン山の妖魔」は、疾走感に溢れる文体で書かれている。……本書は、わずか10年あまりのほのかな光芒を残した作家の神髄を伝えてくれる。

    東雅夫氏(小説推理2003.7月号)
    …このなかば忘れられたモダニズム作家の神髄を一巻に集約した労作。「連想の暴風」とも形容される異形の文体を追体験することで、川端康成から石川淳、安部公房、埴谷雄高らへと連なる幻視者たちの系譜の原点ともなった、日本モダニズム連動の煌めきに触れていただきたいと思う。

    bk1 怪奇幻想ブックフェア「特集・日本モダニズムの光芒」
    ハルツ山脈の霊峰ブロッケン山頂に、白人娘の巨大な裸身が幻成する表題作の奇想と官能に、いきなり度肝を抜かれたのを皮切りに、ただただ茫然と開いた口がふさがらないまま、全巻を通読した次第。

    『活字倶楽部』2003年春号書評
    助詞を省略したり、短文を積み重ねることである種のリズムを作り出している文体はもちろん、映画のモンタージュを意識した場面転換のスタイル、望遠鏡などのレンズを使った器具によってもたらされる視覚の変化などを物語に組み込むことで、夢幻的な光景を生み出しており、新鮮な読後感を与えてくれる(軽)

    柏木博氏(2003.4.28 東京新聞)
    不思議な視覚的文章
    久野豊彦といっても知っている人は少ないのではと思う。そういう私も知らなかった。1920年代から30年代に「新興芸術派」の中心的存在として文壇で活躍したモダニストといえば、それとなくイメージが浮かぶかもしれない。この傑作選には、小説、詩、評論などが入っている。とにかく不思議としかいいようのない文章が詰まっている。「金属製太陽。一枚の青紙。オランダ晴れ。水銀、八十度。朝の時計が七時、針はゆうべの速度だ」といった具合である。

    井狩春男氏(『週刊ダイヤモンド』2003.2.15号)
    ……その幻の天才が復活する。『久野豊彦傑作選 ブロッケン山の妖魔』は、短編小説「ブロッケン山の妖魔」「靴」「徒然草一巻 測候所見積書」「黴の生えたレンズ」「李大石」「虎に化ける」はじめ、詩、タイポグラフィ、エッセイ、自伝などをまとめた初の著作集。文学はまだまだ死んじゃいない。読者は、確かにいる。シッカリ売れるゾ。80ポイント

    朝日新聞書評(2003.3.16)
    …今では知る人も少ないモダニズム文学の神髄を短編や詩などで紹介する。表題作はドイツの山で妖魔の正体を見届けようとする物語。奔放なイメージの展開に前衛のひらめきを感じる。




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