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書物の灰燼かいじんに抗して[詳細]

目次著者紹介関連図書関連情報書評


エッセーとは文化と呼ばれる自然への
もっとも先鋭的な批評行為となりうるだろう。

大学院で比較文学を学び、
スウィフトの空想旅行記をめぐる
学位論文を提出したというのに、わたしは長い間、
この本来の専攻である分野について書いた論文エッセーの類を
纏めることに怠惰であった。
読者がここに手にされるのは、脱線と逸脱を重ねた
著者がこの20年の間に執筆してきた、
比較文学についての紙(ペーパー)である。

(あとがきより)



■目次

1 帰郷の苦悶

01 熱病 タルコフスキー
02 ノスタルジアの来歴
03 廃墟と記念碑
04 黄金時代
05 時間の始原へ
06 倒錯と悲惨
07 隠遁と偏在

2 死の領分

01 死の猶予
02 濫唱と回帰 カントル
03 惨劇の表層 ウォーホルとグリナウェイ
04 鎮魂と再生 キーファ
05 Kの連鎖

3 変容する琵琶法師

01 楽師の冒険 アルトー
02 異形の来歴
03 息と文字
04 盲人の体験

4 パゾリーニ、封印を解く

01 灰燼の詩人
02 パウンドとパゾリーニ

5 怒りと響き

01 白痴の独白 フォークナー
02 映画と文学
03 ジャンルの往還 パゾリーニとデュラス
04 非改宗 センベーヌ

6 泉と同じ数だけの聖者

01 ル・クレジオと砂漠
02 水の眼
03 雲の人々

7 黒いホメロス、ホメロスの不在

01 オデュッセウスの諸相
02 カリブ海のホメロス ウォルコット
03 廃墟と叙事詩 ダルウィーシュ

8 書物の灰燼に抗して

01 燃え崩れた図書館
02 方法としてのエッセー
03 短く書く者
04 書くことの無根拠


あとがき



■著訳者紹介

四方田犬彦 (よもた・いぬひこ)
1953年西宮生まれ。東京大学文学部で宗教学を、同大学院で比較文学を学び、博士課程を修了する。スウィフトの『ガリヴァー旅行記』の分析である修士論文は、後に『空想旅行の修辞学』(七月堂、1996)として刊行された。ソウルの建国大学、コロンビア大学、ボローニャ大学、テルアヴィヴ大学などで客員教授・客員研究員を勤め、現在は東京の明治学院大学芸術学科教授として映画史の教鞭を執っている。映像と文学を中心に、アジア論、音楽、美術、漫画、料理などを対象として批評に健筆を振るう。主な著書に『映像の招喚』(青土社、1983)、『漫画原論』(筑摩書房、1974)、『貴種と転生・中上健次』(新潮社、1996)、『映画史への招待』(岩波書店、1998)、『ハイスクール1968』(新潮社、2004)、『先生とわたし』(新潮社、2007)、『日本のマラーノ文学』(人文書院、2007)、『翻訳と雑神』(人文書院、2007)、『月島物語ふたたび』(工作舎、2007)、『歳月の鉛』(工作舎、2009)、『蒐集行為としての芸術』(現代思潮新社、2010)、『大島渚と日本』(筑摩書房、2010)、などがある。また詩集に『人生の乞食』(書肆山田、2007)があり、サイード、ボウルズ、マフムード・ダルウィーシュ、パゾリーニを翻訳した。サントリー学芸賞、伊藤整文学賞、桑原武夫学芸賞などを受けた。




■関連図書(表示価格は税別)

  • 月島物語ふたたび  四方田犬彦 工作舎 2500円
  • 歳月の鉛  四方田犬彦 工作舎 2400円
  • ハイスクール1968  四方田犬彦 新潮文庫 514円
  • 先生とわたし  四方田犬彦 新潮社 1500円
  • 濃縮四方田  四方田犬彦 彩流社 3800円
  • 空想旅行の修辞学—『ガリヴァー旅行記』論  四方田犬彦 七月堂 3398円



  • ■関連情報

    2011.4.28 三省堂書店神保町本店 四方田犬彦さんトークショー開催

    本書刊行を記念して、4/28(木)18:30〜三省堂書店神保町本店にて著者トークショーを開催します。テーマは「書くことの灰燼」。三省堂書店神保町本店にて『書物の灰燼に抗して』をお買い上げまたは電話にてご予約のお客様、先着100名様に4階レジカウンターにて整理券を配布中。トークショー終了後にサイン会も予定(サインは『書物の灰燼に抗して』のみ対象)。どうぞご参加ください。

    四方田犬彦さんトークショー「書くことの灰燼」
    【日時】2011.4.28(木) 開場:18:00〜 開演:18:30〜
    【会場】三省堂書店神保町本店 8階特設会場
    ※8階特設会場へは、正面入口(靖国通り)側エレベーターにてご来場ください。
    【お問い合わせ】 三省堂書店神保町本店 4階 03-3233-3312(代) 10: 00〜20:00
    三省堂書店サイトヘ >>>



    ■書評

    2011.8.13号 図書新聞 郷原佳似氏
    廃墟に踏みとどまる亡命者たち
    きわめて正統な手続きを踏んで各々の芸術を歴史のなかに位置づける

    …読みながら幾度となく、「世紀末」とか「終末」といった語彙が心中に去来した。そしてそれが、震災後の今という時代の「気分」に合っていたと言えば、不謹慎に思われるだろうか。しかしたとえば、ユートピア思想の流れを辿る文脈で登場する次のような一節を読むとき、そこで語られているのがまさしく「現在」の「われわれ」であることに気づかずにはいられない。「そして現在、つい今しがたまでわれわれを取り囲んでいたのは、分子生物学と核の開発に代表されるテクノロジーが人類によりよき未来を約束するというイデオロギーである」。
    …四方田犬彦の並外れた点は、このように領域も国境も自在に横断して亡命者たちの跡を追いながら、博覧強記の書き手にありがちなように読者を置きざりにすることがけっしてなく、きわめて正統な手続きを踏んで各々の芸術を歴史のなかに位置づけてゆくことである。「ノスタルジア」にせよ「異形」にせよ、まず始めにその「来歴」が丹念に辿られ、しかる後に初めてその現代的形象が俎上に載せられる。廃墟に踏みとどまる亡命者の強靭さと誠実さは、それを浮き彫りにする著者の筆にも宿っているのである。

    2011.7.17 西日本新聞
    普遍的な知への懐疑が一般化している現在、断片的な思考が自由につながるエッセーの形式こそ求められる知の形だと著者は言う。それを自ら実践するような比較文学論集。ロシア映画からノスタルジーの定義の由来と歴史的な広がりを探り、「耳なし芳一」フランス語版から言語と身体の思想的な関係を考察する。…

    2011.5.20 週刊金曜日
    20年という年月をかけて作られた著者の初の比較文学論集。膨大な知識量と分析力に圧倒されるが、根底には文化への敬意が流れている。




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