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眠りの魔術師メスマー[詳細]
モーツアルトを癒した男

私の治療法は習得ではなく閃きである
……これが効奏するのは、薬が害になりこそすれ効果がないが、
想像力がうまく働く患者に対してである。

フランツ・アントン・メスマー

かつてのメスマーの動物磁気療法から生まれた催眠法は
人為的に引き起こされた夢遊状態にほかならない。
ピエール・ジャネ

催眠現象への依存をやめてこそはじめて精神分析は誕生した ……。
精神分析は催眠現象から継承した遺産を駆使しているのだ。
ジークムンド・フロイト



■目次より

日本の読者へのメッセージ
地図:18世紀中期のヨーロッパ

第1部 ウィーン
Ⅰ 狩猟頭のせがれ
  鹿狩り・音楽・水脈占いに才能を発揮した少年メスマーが、
  大司教に認められ本格的な教育を受ける。
Ⅱ 学位論文
  医学を収め、みずからの「手の力」にめざめた若きメスマーは、
  「惑星の影響力に関する身体医学論」を発表。さらにはフリーメーソンとなる。
Ⅲ ラントシュトラーセの宴
  資産家マリーア・アンナと結婚。
  モーツアルトの肩凝りを治し、パトロンとしてコンサートを主催する。
Ⅳ 磁石
  フランツィスカ嬢の「手当て」をきっかけに、 
  治療師としての活躍がスタート。磁気治療をこころみる。
Ⅴ 動物磁気
  天文学者ヘル神父と磁気治療をめぐって対立。
  助手マリノ神父とともに治療装置「メスマーの桶」を開発する。
Ⅵ エリー・ヴィクセルとオイゲン・コシルツキー
  ホルカ男爵の前で少年エリーに奇跡をもたらす。
  菓子屋コシルツキーの失明を治療し、ウィーンでの名声は絶頂に。
Ⅶ マリア=テレジア・パラディース
  妖女ラ・ジュノメをめぐるスキャンダルによって、
  盲目のピアニスト、マリア=テレジアの治療に失敗する。マリアとの恋も終焉。

第2部 パリ
Ⅰ ヴァンドーム広場からクレテイユへ
  魔術ブームに沸くパリでの成功。
  モデュイとの論争をへて協力者デスロンと出会う。
Ⅱ ビュリオン館
  桶治療がファッション化し、ビュリオン館はサロンとなる。
  動物磁気治療師としてのハードな毎日。
Ⅲ 1779年の論考
  ペテン師いかさま師によるメスマーの模倣が蔓延。
  メスマー攻撃が激化し、パリ大学ではメスマー理論が否定される。
Ⅳ 患者の懇請
  マリー・アントワネットがメスマーに好意を示すが、
  国務大臣モールパとの面談は、メスマーの一 方的な怒りによって破局をむかえる。
Ⅴ スパと「調和協会」
  パリを離れ熟考する日々。デスロンとの決別を経て、
  「世界調和協会」を設立する。錬金術への急速な接近。
Ⅵ 王立調査委員会と秘密報告
  パリのメスマー批判が高まり、動物磁気が公序良俗に危険を及ぼすと断罪される。
  一方、ラファイエットはメスマー支持を表明。
Ⅶ 誘導催眠とアヴィニョンの天啓主義者
  ピュイセギュール侯爵と「催眠誘導」をめぐる対話。英国で講演。
  錬金術についての謎の誓約書にサインする。
Ⅷ 動物磁気と大革命
  メスマー理論の革命への影響。
  パリを脱出するもウィーンで逮捕され、獄中で誓約書の謎を解明する。

第3部 メールスブルク
Ⅰ 黒の過程
  シャフハウゼンに錬金術実験室を準備。
  黒の騎士の協力のもとに長寿薬エリクシルを作る。
Ⅱ ノストック
  アル・ラーズインの助言によってノストックを求める旅に。
  ジプシー女の予言を受け、マリア・テレジアと再会する。
Ⅲ シュヴァーベンの海
  従者アントワーヌの死。ドイツでメスマー評価が高まりロマン主義へ影響を与えるが、
  メスマーは音楽に包まれて最後のときをむかえる。
出典と資料/文献




■著者紹介:ジャン・チュイリエ Jean Thuillier 1912-

フランスのリモージュ生まれ。パリ大学医学部卒業の医学博士。パリのサン=タンヌ精神病院勤務時(1950-68)に最初の神経心理薬理学研究チームを結成し、以来、精神のメカニズムと向精神薬の作用との関係も手がけてきた。『狂気を変えた10年間』(1980)はそのルポルタージュであり、かつての精神病治療の実態やLSD作用の驚異と悲惨など、種々の治療薬誕生の経緯を活写している。ほかに専門領域での著書には、『麻薬』(1950)、『向精神薬の作用』(1957)、『精神の毒薬』(1961)、『医学と死』(1978)などがあり、作家としては『ビュランド』(1967:筆名ジャン・ブリアンス)、『ゼンメルヴァイス』(1983:リトレ賞受賞)、『隠れ場』(1984)などの作品がある。


■関連書籍

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■書評

『科学朝日』(1992年12月)
「メスメリズム=催眠術にその名を残すF・A・メスマー(1734-1815)は、一世紀を距ててフロイトらによって花開く力動精神医学の先駆者とされる。一方、新世界を発見しながら自らの発見の本質を知らず、毀誉褒貶が激しく、しかも、その生涯はあまり明らかでないことから、コロンブスにもたとえられる。
 そのメスマーの波乱に満ちた生涯をフランスの精神科医で作家であるチュイリエが細密に再構成する。
 コンスタンツ大司教の狩猟頭の子であるメスマーは、大司教に認められて学問への道に進み、「惑星の影響力に関する身体医学論」で医学博士となる。そしてウィーン、パリ、ベルリンで動物磁気療法を行い、一世を風靡し、フランス革命やドイツ・ロマン主義にまで影響を与える。ただし当時から非難は著しく、学界から排斥され、政治的攻撃も受けている。本人の能力の特異さの記述は豊富で、モーツアルトの肩凝りを治したといったエピソードも楽しい」



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