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耳ラッパ[詳細]

目次あらすじ著者紹介関連図書書評


『耳ラッパ』を読むと、われわれの日々の
悲惨な現実から解き放たれる

ルイス・ブニュエル(英語版惹句)

文章も絵もいつも魅力的な女性の最も素晴らしいストーリー。
文章や絵を描く女性は自らを若く見せようとするものだが、
キャリントンは若いころから歳を取る喜びを感じる類い希な女性である。
著者をモデルにした主人公は新しい90歳代のアリスだ

ピエール・ド・マンディアルグ(仏語版序文)

挿絵1



■目次より

素敵なプレゼント
光の家
調理場での奇妙な光景
サンタ・バルバラ修道院尼僧院長の生涯
モード殺人事件
反乱計画
闇夜の集会
天変地異・世界の子宮にて
聖杯の奪回

挿絵2



■あらすじ・・・

「七〇歳以下の人間と七歳以上の人間を信用してはだめよ。
  猫でもないかぎりね……」

親友のカルメラからプレゼントされた素敵なオブジェ、耳ラッパ。92歳の風の老女マリアンが帰宅して廊下の暗がりでそれを耳にあてると、息子と嫁、孫も加わって言い争いをしているのが聞こえてきました。「もう決めただろう」「遅すぎるのよ」「婆さんは人間のうちにはいらない」「ホームの方が幸せよ」…… 二匹の猫と小さな裏庭に面した部屋で暮らす平穏な日々は、その瞬間に崩れ去りました。 お城のような本部をとりまいて毒キノコや客車や塔などさまざまな形の離れが点在する老人ホームで、マリアンは個性豊かな老女たちと出会い、不思議な絵や本に記された尼僧院長の魂の遍歴を追体験したり、殺人事件や施設の管理主義にたちむかったり、痛快な冒険の日々を送ります…… 新氷河時代を迎えた地球を救うのは誰?




■著者紹介:レオノーラ・キャリントン Leonora Carrington

1917年4月6日、イギリスのランカシャーで、裕福な実業家を父にアイルランド人を母に、4人の子供の一人娘として生まれる。17歳で社交界デビューするが飽き足らず、父親の反対を押し切ってロンドンの美術学校に進む。1936年、ロンドンで開かれた国際シュルレアリスト展でマックス・エルンストの作品に打たれ、翌年本人と劇的な邂逅をはたす。エルンストを追ってパリ、さらには南仏に移り、シュルレアリスト・グループと交流。パリとアムステルダムの展覧会に出品するとともに、短編『恐怖の館』『卵型の貴婦人』を出版。1939年第二次世界大戦が始まり、ドイツ人のエルンストは強制収容所に送られ、キャリントンはスペインに逃れるが、精神病院に収容される。
回復後メキシコ人レナト・レドックと結婚、ニューヨークへ渡りシュルレアリスト・グループと再会。1942年以降はメキシコ在住。再婚したハンガリー人写真家のエメリコ・ヴァイズとの間の二人の息子ガブリエルとパブロを育てながら、絵画、版画、タピストリー、彫刻の分野で旺盛な創作活動を続ける。多くの短編小説で、美術はもとより文学の分野でも国際的な評価を得ている。1997年10月、「レオノーラ・キャリントン展」が開催され、東京ステーションギャラリーを皮切りに、日本各地を巡回し注目をあびた。2003年7月、東急文化村「ザ・ミュージアム」での「フリーダ・カーロとその時代展」でも、メキシコに花咲いた女性シュルレアリストの絵画として、バロとともにキャリントンも紹介される。




■関連図書(表示価格は税別)

  • 恐怖の館 世にも不思議な物語  レオノーラ・キャリントン 2600円
  • 夢魔のレシピ 眠れぬ夜のための断片集  レメディオス・バロ 2500円
  • 夢先案内猫 フィニのワンダーランド・トリップ  レオノール・フィニ 1400円



  • ■書評

    増田千穂氏(『美術手帖』2003年11月号)
    巨匠による小説もどうぞ。…老人ホームで個性的な仲間たちと繰り広げる、シュールな冒険物語

    『エフ』(2003年11月号)
    奇妙な老人ホームを舞台に、物語は老婆の記憶と妄想をたどってイギリスの魔女伝説へ

    WEB すみ&にえ「ほんやく本のすすめ」
    すみ=なんというか、ぶっ飛び方が半端じゃないよね。この小説じたいをあえて説明するなら、 「不思議の国のアリス」のアリスが老婆になって、40度以上の高熱を出しているときに見た悪夢、みたいな(笑)
    読んでて、やれるだけやったなってニンマリする小説はあるけど、この小説は、どこまで 連れていかれちゃうの? 助けて〜!! って感じだったよね。
    にえ=最初のほうはユーモラスで、ウフフって微笑みながら読んでるんだけど、最後のほうは顔を 引き攣らせて、ヒステリックな笑い声をあげながら読みたくなるような。

    山形浩生氏(朝日新聞 2003.10.5)
    シュルレアリスム画家としても幻想小説家としても名高いレオノーラ・キャリントンの代表作。92歳の老婆が、友人に補聴器(=耳ラッパ)をもらい、家族に老人ホーム送りにされたことから生じる一大幻想絵巻。ボケ老人的な論理の飛躍が次々に繰り出される、自由連想じみた物語の奔放さは比類がない。尾ひれをつけた老婆の妄想だったものが、いつの間にやら異性物との交流に世界変革といった壮大な話にふくれあがる様子はただただ驚くばかり。ボケ老人になるのがこんなに楽しいとは!
    読み進むうちに、飛躍して見える各種の展開に、何か説明しがたい論理性が感じられてくるのも本書の醍醐味。キャリントンの描く不思議な味わいの絵とも共通する夢の論理だ。そうした絵やスケッチ、写真も何点か収録されており、様々な楽しみ方のできる味わい深い一冊。現在巡回中の「フリーダ・カーロとその時代」展にも彼女の絵があるのであわせてお薦め。

    中村びわ氏(bk1)
    …女神たるキャリントンも霊感を与えるだけでは飽き足らなくなり、自分が得た霊感を創造に向かわせ自立した女性となっていく。耳ラッパを手にした老婆の行動が、それに寄り添う気がする。「自立」は物語後半に思いの他のスケールで展開していく。西欧文化を支えるキリスト教の教義や聖杯伝説、騎士道物語などに踏み入り、超現実を物語の現実化に痛快にすり変える。ファンタジーってこんなに面白おかしくラディカルに伝統や制度に当たっていけるのかと感心すると同時に、これがブルトンの宣言に即した、よく練られた実践小説であることに気づかされる。…キャリントン自身の挿画、相も変わらず凝りに凝りまくりの工作舎の装丁(子持ち罫の四隅にある罫の細さは何だ!?)について書く幅がない。残念!
    bk1サイト全文へ >>>

    ダ・ヴィンチ(2003年10月号)
    …乳母の語るアイルランドの伝説・昔話に影響を受けた著者の描く奇想天外な幻想譚……

    東京新聞(2003.8.28 夕刊)
    一癖二癖ある老人たちに独裁的な施設長夫妻、ウインクする尼僧の肖像画、殺人事件、反乱、氷河期の再来……老いの身空、妄想と覚醒の狭間をたゆたう悦楽をあなたにも

    産経新聞(2003.8.17)
    好奇心旺盛な老女の冒険をシニカルに描く。女性シュールレアリストが紡ぐ奇想天外な物語




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