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脳科学と芸術[詳細]

目次 著者紹介関連図書書評


錯視画
錯視デザイン=北岡明佳

なぜ感動するのか?

複雑な歌をうたおうと、練習にいそしむ小鳥、
アクションペインティングさながら夢中で絵を描くチンパンジー、
2万年余にわたり、洞窟の暗闇にみごとな絵を描いてきた私たちの先祖……。

なぜ美しいものに魅了されるのか?
失語症になっても歌ならうたえるのはなぜか?
脳の病がもたらす芸術的表現とは?
左手がひらいた新たな音楽的境地とは?
能の秘伝に託された身体芸術の極意とは?

生物研究や乳幼児の発達の観察、
リハビリテーションの現場での知見、
認知科学や脳神経外科などの最先端の成果と、
アートシーンの最前線における体験的考察により
時代や地域性を超える力をもつ芸術の妙をあかす。



■目次より

まえがき
巻頭カラー

第1部 恋う:芸術衝動の由来と発達

1  岡ノ谷一夫 小鳥の歌に見られる美の進化
小鳥はなぜうたうのか/小鳥の歌が美しいのはなぜか/歌学習の進化

2 齋藤亜矢 絵筆をもったチンパンジー──描くことの起源を探る
チンパンジーの筆さばき/「ない」ものを描くということ/想像と創造

3 港千尋 心の洞窟──イメージの起源へ
問いとしての洞窟/イメージの共同体/闇の意識

[間奏1] 入来篤史 脳内の時空処理

4 川畑秀明 脳はなぜ美に魅せられるのか
美術の背後にある視覚脳/視覚脳の延長としての美術/芸術の美しさを脳から探る

5 金沢創+山口真美 赤ちゃんの運動視の発達からみた「物世界」の起源
最初の運動視はいつ?/3か月以上5か月未満の不思議な世界/4か月から5か月ごろに成立するもの

6 保前文高+多賀厳太郎 言葉と音楽を育む赤ちゃんの脳
乳児にとっての言語情報/言語発達の2方向性/言語と音楽の接点

7 川村光毅 音楽する脳のダイナミズム
聴く脳・楽譜を読む脳/音楽を傾聴する脳/演奏する脳・歌う脳

8 北浜邦夫 夢・幻想・芸術
胎児は夢を見ている/夢と幻想絵画/フロイト博士登場

[間奏2]北澤茂 目や手の動きで変わる時間の流れ

第2部  癒す:やわらかい脳と芸術的創造力

1 河内十郎 脳損傷と芸術──特に造形芸術について
失語症が芸術的創作活動に及ぼす影響/視覚イメージの喪失の影響/半側空間無視と創作活動

[間奏3] 斎藤公子+小泉英明 幼児に芽生える芸術の心

2 野田燎 音楽運動療法による癒す力の喚起
ライフワークの予兆/脳神経回路の再編/意識障害患者の音楽運動療法実施例

3 舘野泉  左手のピアニストとしての新生
ステージ上で倒れる/ばねが失われた右半身/吉松隆「ケフェウス・ノート」で協奏曲再デビュー

[間奏4]吉松隆 音楽の神が降りてくるところ

4 緑川晶+河村満 脳損傷による芸術活動の障害と発現──神経心理学の視点から
音楽/絵画/書字

5 中井久夫  共感覚者のイメージ世界
アルファベット26文字それぞれの色/言語化しえぬ心の世界によりそうアートセラピー

6 伊福部達 音楽の起源──福祉工学の前線から
聞くことの起源/歌う起源と人工喉頭の開発/民族の響きから、それを超えた普遍的な響きを求めて

[間奏5]檀一平太  料理するサルと脳の進化

第3部 究める:遊びから至高体験へ

1 大橋力 至福の音体験と脳──全方位非分化型アプローチの射程から
「美」と「智」の空白地帯からの発端/原始的アプローチからの〈ハイパーソニック・エフェクト〉発見

2 湯浅譲二  音楽の始源性への道
芸術にも発明発見が不可欠である/未聴感の音楽をめざす/私のコスモロジーの醸成と実験工房での切磋琢磨

[間奏6]篠田桃紅 玄のおもいとかたち

3 高橋アキ 新しい耳をひらく鍵
体系化されたクラシックへの反発/人間的な感情を音にのせる/音楽で「向こうの世界」と交感する

4 北岡明佳  錯視アートの醍醐味
錯視のエンターテインメント性と美/錯視と脳と芸術/錯視デザインと錯視アート

[間奏7]藤井直敬  直感と推論:香道からみた創造的脳機能

5 高田みどり 寂静の世界への旅
瞑想状態の脳波の音楽/身体からの再出発/菩薩との対話

6 梅若猶彦+小泉英明 世阿弥の秘伝書の極意をめぐって
先天的な才能と後天的経験/世阿弥の疑問符/非風を是風に

[間奏8]渡辺英寿 能楽師の脳内観賞

7 小泉英明  脳科学と芸術の明日にむけて
芸術の基盤となる脳を知る/感じる脳・考える脳を観る/芸術とは何か

[間奏9]小泉英明 「感性」という言葉の意味するところ──芸術と脳科学の架橋に向けて

あとがき
索引
著者紹介



■編著者紹介:小泉英明(こいずみ・ひであき)

(株)日立製作所役員待遇フェロー、(独)科学技術振興機構「脳科学と教育」領域統括、東京大学先端科学技術研究センター客員教授、中央教育審議会・原子力委員会各専門委員。1971年、東京大学基礎科学科卒業・(株)日立製作所入社。76年、偏光ゼーマン法の創出で理学博士。83年から日立MRI開発プロジェクトリーダーとしてMRAやfMRIを含む種々の新技法を開発。95年、光トポグラフィ法を創出して「心の計測」に取り組む。同社基礎研究所所長、(社)日本分析化学会会長などを歴任。大河内賞3回ほか内外の多くの賞を受賞。著書『脳は出会いで育つ』(青灯社)、編著書『幼児期に育つ 科学する心』(小学館)、『育つ・学ぶ・癒す 脳図鑑21』(工作舎)など。




■関連図書(表示価格は税別)

[脳と芸術の関係を知る関連図書]
  • 芸術と脳科学の対話  バルテュス+セミール・ゼキ 青土社 1900円
  • 脳は美をいかに感じるか   セミール・ゼキ 日本経済新聞社 3500円
  • 理性と美的快楽--感性のニューロサイエンス   ジャン-ピエール シャンジュー 産業図書 2300円
  • 人はなぜ『美しい』がわかるのか   橋本治 ちくま新書 760円
  • 芸術脳   茂木健一郎 新潮社 1400円
  • 芸術の神様が降りてくる瞬間   茂木健一郎・町田康・荒川修作他 光文社 1500円
  • 錯視完全図解--脳はなぜだまされるのか?  北岡明佳=監修 ニュートンプレス 2300円

    [工作舎の脳関連図書]
  • 育つ・学ぶ・癒す 脳図鑑21  伊藤正男=序 小泉英明=編 (品切)
  • 三つの脳の進化  P・D・マクリーン 3400円
  • 生命とストレス  ハンス・セリエ 2200円



  • ■書評

    Medical Bio 2009年7月号書評
    30名以上もの魅力的な書き手
    何よりの驚きは、おそらくは決して長くない編集期間のなかで(少なくとも、科学者の論考は発行数か月前に得られた知見が含まれるものが多い)、30名以上もの魅力的な書き手を集めたことだ。現代音楽から聴香、能楽など、扱われる分野も幅広く、一つ一つの論考を読んでいるだけで楽しい。特に科学者の論考では、若い研究者の野心的な試みも多数取り上げられていて、わくわくする。
    では、全体として、「脳科学と芸術」の総合的な本となっているだろうか。脳科学が飛躍的に増えたために科学者を現実的にさせ、科学と芸術との間にあった溝は無邪気に飛び越えられないことを意識させられる。(後略)(長神風二/東北大学脳科学GCOE)

    科学2009年6月号 養老孟司氏書評
    「感性」を残しながら概念的な世界を構築できる脳を目標に
    …「芸術と脳」が目指す世界、ある意味でのヒトの理想像は、私には明らかだと思われる。日本語でいうところの感性、それを残しながら、概念的な世界を同時に構築できる脳、それが目標なのである。しかし現代社会と教育は、治癒はしたが、つまり社会的適応はできたが、感性はすっかり消失したという、きわめて多数のナディアをひたすらつくり出している。そんな気がしてならない。そういう時代に、これだけ多くの著者たちが、脳と芸術の関係を追っているのは、じつは大したことではないだろうか。著者たちの労を多とし、本書のような研究方向の今後に期待したい。

    ムジカノーヴァ 2009年4月号「頼近美津子の音楽教育etc.トーク」小泉英明氏インタビュー
    芸術が与えてくれる感動は、意欲の原点になり得る
    芸術が引き起こす感動は、意欲の原点です。感動があるから意欲や情熱が湧く。脳の一番外側は、図書館のようなもので、私たちが勉強してたくさんの知識を得るのは、図書館にたとえると、本が増えていくイメージです。いくら蔵書を充実させても、そこにある本を使わなければ、なんの意味もない。脳の真ん中のところで、「自分には志がある」「私はこれをやりたい」という意欲が生まれて初めて、本、つまり蓄積した知識が意味を持つわけです。意欲さえあれば、子どもは放っておいても、自分で本をどんどん増やしていきます。「ピアノを弾くな」と言われても、弾くようになるんですね。

    ムジカノーヴァ 2009年4月号 杉浦日出夫氏(ピアニスト・教育・作曲)書評
    生きた心を生む芸術、感動する脳を探究する
    …この本では、ピアニストの舘野泉氏を襲った悲劇と再生を、氏自身の報告で読むことができます。氏はある日、長男が何気なく置いていった、左手のためのピアノ作品を弾いてみました。すると《大海原が目の前に現れた。氷河が溶けて動き出したような感じであった。使っているのは左手だけであるが、そんなことは意識にあがらず、手が伸びて楽器と触れ、世界と自分が一体となる。音が香り、咲き、漂い……》とあり、これこそ左手による右脳の世界、すなわち「感動する脳」であると実感しました。…

    京都教育大学 斉藤百合子氏書評 京教図書館News No.99 2008年12月号
    芸術が生きる力の原動力となる
    音楽科などの芸術教科が、常に存続の危機にさらされているという事実をどのくらいの人が知っているだろう。 …脳科学の知見から芸術教育の必要性を訴えているという、私たちからすると非常に心強い存在なのである。小泉氏は昨今の教育が「知育」ばかり重視されていることを危惧している。脳科学の立場から言えば、外側の新しい皮質にいくら知識や技術を詰め込んでも、やる気や意欲を起こすための原動力、つまり「パッション」がなければ何も始まらないと。その「パッション」は古い皮質にあり、それを育むのが「芸術」であるという。音楽を聴いたり、奏でたり、絵を描いたりすることは古い皮質を活性化し、パッション(意志・情動)を育むのである。すると生きる力や知的欲求が湧いてくるというわけである。




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