工作舎 > 特集 > 消されたのは誰か? > 参考資料

◎参考資料・目次(リンクする文章)
(0)小川眞里子プロフィール
(1)川島の第一抗議文(1月28日付)
(2)十川の抗議文(1月26日付)
(3)証拠書類
(4)十川の調査による大江本の誤訳
(5)中川本と大江本の比較
(6)『男装の科学者たち』との比較
(7)川島の抗議文その2(2006年2月26日付)
(8)十川の抗議文その2(2月17日付)
(9) 十川によるメーリングリストへの投稿(2月27日付)
(10)十川によるメーリングリストへの再投稿(3月1日付)
(11)小川によるメーリングリストへの投稿(3月20日付)




 

(0)小川眞里子(おがわ まりこ)

三重大学人文学部教授。生物学史・医学史、科学とジェンダーをテーマとし、『フェミニズムと科学/技術』(岩波書店 2001)、『甦るダーウィン』(岩波書店 2003)の著書がある。本文に関係する「10人の女性ノーベル賞受賞者」(初出『学鐙』2002)は、日本エッセイストクラブ編『うらやましい人』(文藝春秋社 2003、文春文庫 2006)。シービンガーの著作の翻(共)訳は『科学史から消された女性たち』(1992)、『女性を弄ぶ博物学』(1996)、『ジェンダーは科学を変える!?』(2002)に続いて、『植物と帝国』(仮)を工作舎より2007年4月に刊行予定。

top▲



 

(1)川島の第一抗議文(1月28日付)

「貴社刊行のブルーバックス、大江秀房著『科学史から消された女性たち』に関して様々な問題点があることが判明いたしましたので、ここに抗議ならびにその仔細について述べさせていただきます。

 1)タイトルについて−工作舎から、アメリカの科学史研究者ロンダ・シービンガーによる同タイトルの翻訳書がすでに1992年に出版されております。大江氏はあきらかに工作舎の翻訳本を参考にしているにも関らず、それに関する記載(原書も含めて)が一切ありません。タイトルには著作権が発生しないとはいえ、一般常識から考えますと、これはきわめて悪質な剽窃行為と定義していいでしょう。

 2)参考文献について−参考文献および本文中の参考図書の中に、すでに日本で翻訳が出版され、それなりの注目を呼んだものが見受けられますが、大江氏はそれについて一切言及していません。たとえば下記のようなものです(作者名および翻訳者名略)。

p.254. The Love Letters(『アインシュタイン、愛の手紙』岩波書店, 1993)

p.262. In Albert's Shadow(『二人のアインシュタイン』工作舎, 1995)

p.265. Nobel Prize Women in Science(『お母さん、ノーベル賞をもらう』 工作舎, 1996)

3)川島論文について−大江氏は本文149ページから152ページにかけてラヴワジエ夫人について述べていますが、ここはあきらかに『化学史研究』(Vol31-2, 2004)の川島論文(添付資料1、2参照)を参考にしております。このように川島論文と類似の文章(赤線部分)が散見されるにもかかわらず、氏は参考文献に(『化学史研究』第31巻 第2号(化学史学会, 2004)と記述するのみで、川島の名前も論文の題名も記載しておりません。これらの文章の類似に関しては、法廷で争うことを決意したわけではありませんが、この行為が公的な謝罪を必要としないものであるとは川島は考えておりません。

 以上のことから私は貴社と大江氏に以下のことを要求いたします。

1.ただちに本書を回収すること。もしくは正誤表を在庫およびすでに書店に出ているすべての本に差し込むこと。

2.大江氏は自分を「化学史学会会員」と明記している以上(尚、シービンガー著『科学史から消された女性たち』の翻訳者の内、小川眞里子氏と家田(現姓:中島)貴子氏、そしてラヴワジエ夫人の論文を書いた川島の3人も化学史学会の会員である)、まず『化学史研究』に謝罪文を載せること。他に科学史研究者や科学者(特に女性科学者)が多数学会員であるような学会誌にも謝罪文を載せること。

 最後にジェンダー研究者として、今回の事件に関して一言述べさせていただきます。本書を仔細に検討した結果、上記の問題点に関して、大江氏とブルーバックスの担当編集者に明らかな悪意があったとは川島は考えておりません。しかし結果としてこの二人の男性は一人のアメリカ人女性研究者と多数の日本人女性研究者および翻訳者(ここで大江氏が無視しているすべての翻訳本の訳者は女性です)を侮辱するにいたったのです。彼らの主観がどうあれ、この行為は女性に対するある種のハラスメントと定義しうるでしょう。

 ここにおいてこの二人の男性の行為(多くの女性研究者や女性翻訳者の業績を無視している)は、彼らの主観(女性科学者や女性の社会進出を応援したい)を裏切っています。無視されたのがすべて女性であることは偶然ではありません。この現象を、女性学やジェンダー学の研究成果をもとに分析すると、結局この二人の男性の(自分でも意識していない)本当の意図は、科学者に関らずあらゆる女性の真の社会参加を応援するものではない、ということになります。私の友人のジェンダー研究者もみな同意見です。本書は社会において自分の能力を発揮したいすべての女性にとって「味方の顔をした敵」の書いた、巧妙なワナなのです。このことにはなんらの違法行為もないでしょうが、私は何よりも、本書の持つこのような「悪気のない」ハラスメント的要素に、一ジェンダー研究者として深い絶望を禁じえません」。

top▲



(2)十川の抗議文(1月26日付)

講談社ブルーバックス編集部
小沢 久 様

大江秀房氏の著書『科学史から消された女性たち』の刊行に唖然としておりましたが、『死してなお君を』回収のニュースに触発され、御社の自浄作用を頼りに、お手紙さしあげます。

同書はロンダ・シービンガー著/小川眞里子他訳『科学史から消された女性たち』 (工作舎、1992)の研究テーマ・内容を随所で借用し、タイトルまでそのまま使いながらひとことも、原著者や訳者に礼をつくしておりません。

また、同書冒頭は、小川眞里子氏による「10人の女性ノーベル賞受賞者」(03年ベストエッセイ集『うらやましい人』に収録)の内容が、無断借用されています。

巻末参考文献に『うらやましい人』が上げられていますが、これでは日本における「ジェンダーと科学」の研究分野の先達への敬意を表したことにはなりません。

さらに、大江氏がもっとも参照したはずの『Nobel Prize Women in Science』については、原著の2版をあげるのみで、中村桂子監訳の邦訳書『お母さん、ノーベル賞をもらう』(工作舎、1996)を無視しています。しかし例をあげれば、メイヤーの受賞記事の主語を「お母さん」と訳した中村氏の仕事を参照していることは明々白々です。

さらにさらに、ミレヴァ・マリッチの科学的貢献を初めて全世界に知らしめたデサンカ・トルブホヴィッチ=ギュリッチ著/田村雲供他訳『二人のアインシュタイン』(工作舎、1995)については、「ユーゴスラヴィア人女性伝記作家デサンカ・ツルブオヴィッチ=ギュリック」の「著書」にふれるだけで、書名もあげず、また女性訳者たちの訳業を無視しています。

さらにさらにさらに、大江氏は化学史学会会員とのことですが、同会員・川島慶子氏の長年の研究成果をまとめた著書『エミリー・デュ・シャトレとマリー・ラヴワジエ:18世紀フランスのジェンダーと科学』(東京大学出版会、2005)にもふれようとはしていません。

大江秀房氏の著書『科学史から消された女性たち』は、「ジェンダーと科学」を国際レベルで研究する日本の女性科学者および科学史家たちを「科学史から消された女性たち」におとしめんとする一著です。

写真の転載についても、一部は表記がありますが、ずいぶん奔放にされていると見受けました。

「ジェンダーと科学」についてポピュラーな書物が出版されることは、本来でしたら悦ばしいことですが、著者みずから本の趣旨にはずれた行為をするのは、見逃すことができません。

若い人の科学離れが懸念される昨今、ブルーバックスが読書界に占める役割はとても重要であり、私自身、長年にわたり愛読させていただいております。 「釈迦に説法」を承知であえて申しあげれば、おかしな著者の不備をただし、日本の科学読み物のレベル維持・向上につとめるのは、編集者の基本的な仕事かと存じます。

ご多用中のところ、恐縮ですが、書面ないしはEメールにて、今後のご対応についてご一報くださいますよう、お願い申しあげます。

2006年1月26日
工作舎 十川治江

top▲



(3)証拠書類

資料1[証拠書類0102] 小川眞里子著『フェミニズムと科学技術』(岩波書店、2001年):小川本

資料2[証拠書類03] 大江秀房著「科学を支えた女性たち(1)」(『未来材料』2003年6月号):大江記事

資料3[証拠書類0405]  小川眞里子著「10人の女性ノーベル賞受賞者」(『うらやましい人』所収、文藝春秋 2003年7月):小川エッセイ

資料4[証拠書類060708] 大江秀房著『科学史から消された女性たち』(講談社ブルーバックス 2005年):大江本

[証拠書類より ヤーロウ記述にみる比較]

小川本:一九七七年にアメリカのロザリン・ヤーロウが放射性同位元素標識免疫定量法(RIA)の研究で受賞したときも、「彼女は料理し、掃除し、ノーベル賞をとった」といった見出しが紙面に躍ったのである。(p66)

大江記事:1977年に受賞したヤーロウ夫人の場合、新聞に「彼女は料理し、掃除し、ノーベル賞をとった」といった見出しが付けられたのである。(p54)

小川エッセイ:新聞の見出しも、メイアーのときは「サンディエゴのお母さんノーベル賞受賞」、ホジキンのときは「イギリスの妻、ノーベル賞受賞」といった具合であった。こうした傾向はフェミニズム運動が盛んになっても衰えることはなく、一九七七年のヤーロウの受賞のときも、「彼女は料理し、掃除し、ノーベル賞をとった」という見出しが紙面を飾った。(p38)

大江本:…当時の新聞は、メイヤーのときは「サンディエゴのお母さんノーベル賞受賞」、ホジキンのときは「イギリスの妻、ノーベル賞受賞」という見出しをつけ、一九七七年に受賞したヤーロウ夫人のときも「彼女は料理し、掃除し、ノーベル 賞をとった」という見出しを掲げていた。(p17〜18)

top▲



(4)十川の調査による大江本の誤訳

『お母さんノーベル賞をもらう』
大江秀房著『科学史から消された女性たち』:大江本

(フランクリン)
アドリエンヌ・ヴェイユ(フランス人物理学者)
大江本:アドリエンヌ・ヴァイル

(ネーター)
マックス・ゴーダン
大江本:ポール・ゴルダン(原著のまちがいを正している。ただしドイツ人なので「パウル・ゴルダン」とすべき) 

カリフォルニア工科大学
大江本:カリフォルニア技術研究所

(呉健雄チェン・シュン・ウー)
チェン・ニン・ヤン
大江本:ゼン・ニン・ヤン(原著表記はChen Ning Yang なのになぜ?)

ミシガン大学の学生寮は女性の使用が認められない
大江本:ミシガン大学では学生連合に女性が加わることが許されていない (women were not permitted to use the University of Mishigan's student union building.)

(☆ストーリー丸取り:『お母さん』の呉健雄の章の末尾にあげられた呉の言葉! ストーリーを丸取りしたなら、ここまで、しっかり拾って欲しい。 「発展に対する大きな障害は、かつても今も、何の罪もないように見える伝統というものなのです」)

(ジョスリン・ベル)
ジョスリンが子供だった1940年代から50年代にかけて、アイルランドの宗教紛争は、まだそれほど目立つものではなかった。
大江本:ジョスリンが子どもであった1940年代および1950年代は、まさに宗教紛争の時期であり、あとから移住してきた外者には理解できないことも少なからずあった。
(During the 1940s and 1950s when Jocelyn was a child, Ireland's religious strife──was not as obvious to outsiders as it became later.)

王立観測所での女性の同僚たちを見ていても、まるで普通でない家庭生活をしているか、パートタイムで働きながら幸運を待ち、同僚の恩や上司の親切のおかげで働いているかのどちらかでした。
大江本:王立天文台で働いている同僚の女性を見ていると、家庭での生活形態を普通と違えてフルタイムで働くか、パートタイムで頑張るかのどちらかで、いずれの場合も必ずしも満足のゆくものではないような印象を受けます。特にパートタイムの場合、特別な事が起きないようにひたすら幸運を願い、他の同僚に義務を押し付け、管理責任者に融通をきかせてもらうことが多いのです。
(Looking at my female colleagues at the Royal Observatory, it seems that either we have made some unusual domestic arrangements or we have tried working part-time, hoping for good luck, obliging colleagues, and acomodating directors.)

top▲



(5)中川本と大江本の比較

ここではブルーバックスの方の盗用例だけを載せるが、『未来材料』の記事には、ここで示した分の6,7倍の量の盗用が存在する。

中川本:「マリ=アンヌは一家の主婦として勤めながら、夫の論文を浄書し、口述を筆記し、化学実験を手伝い、そして研究旅行に同行し、英語論文を翻訳した。[...]後に新古典派の巨匠となる画家ルイ=ダヴィドに師事して絵画を学び、手なれた製図家、銅板画家となった。その作品は夫の書物を飾っている。「フランス革命」の年に出版された「化学革命」の書『化学原論』((Traité éméntaire de chimie, 1789)には多数の挿図が含まれているが、それらは彼女の作品で、各図の右下の隅に「ポールズ=ラヴォアジエ」との銘が記されている(中川本, pp.62-63)」。

大江本:「マリ=アンヌは、一家の主婦を務めながら、夫の論文を清書し、口述筆記し、化学実験を手伝い、研究旅行に同行し、英語論文を仏訳するなど、秘書兼共同研究者のような働きをしていたのだ。  さらにまた、芸術的才能に恵まれ、後に新古典派の巨匠となり、ナポレオンの戴冠式の絵画で著名な画家ルイ・ダヴィッドに師事して絵画を学び、手なれた製図家、銅板画家となった。そして夫の多くの刊行物に挿絵を描いている。その代表例は、フランス革命の 年に出版された“化学革命”の書『化学原論』にみられる多数のみごとな挿絵で、各図の右下の隅に「ポールズ・ラボアジエ作」と銘打たれている(大江本, p.151)」。




top▲

(6)『男装の科学者たち』との比較

たとえばラヴワジエ夫人の部分で言うなら、彼女の再婚の失敗について、『男装の』では「彼女は従属的な妻の役割を演ずるのは不本意だったので、彼らは四年後に別れた。彼女はその後ずっと成功した女性実業家、慈善家として通した(p.129)」と表現してあるのだが、大江本はここを「彼女は従属的な妻の役割を演ずることが性に合わず、二、三カ月から激しい口論が絶えず、結局四年後に別れた。その後はずっと成功した女性実業家として、また慈善家として、さらには彼女の生きがいともなっていたサロンの女主人として七八歳の生涯を閉じた(p.152)」と、前者ときわめてよく似た言葉で表現している。『未来材料』の記事に関しては、ラヴワジエ夫人の部分に限らず、全般にわたりその盗用は中川本をはるかに超える量であり、わたくしたちのみならず、翻訳者自身すらいまだにその全貌をつかみきれていない。

top▲



(7)川島の抗議文その2(2月26日付)

大江秀房著『科学史から消された女性たち』に対する抗議文2

 上記の主題に関する、講談社社長野間様への1月28日付けの私の抗議文に対して、ブルーバックス編集部の小沢様より2月9日付けで御返事をいただきました。しかしながら、とうてい了解できるような内容ではなかったので、早速2月14日付けで小沢様の方に、質問状を送らせていただきました。しかしいまだに御返事がありません。そこで、改めて野間様に御手紙を差し上げます。

 と、申しますのも、この間に重大なことが次々と明らかになったからです。私は最初、大江氏の本の問題は「工作舎の翻訳のタイトル、女性研究者たちのアイデア、川島論文からの文章の盗用」だけだと思っておりました。ところが、他の多くの本からも文章そのものを大量に盗用していることがわかったのです。同封のコピーから明らかなように、大江氏はブルーバックスにおいても、その元となった『未来材料』の記事においても、複数の本から文章をそのまま切り貼りし、そのことに一切触れておりません。これは私が発見したことのほんの一部です。まだ全体像の解明にはいたっておりませんが、もはや盗用の実際がどのくらいの量になるのか見当もつきません。

 そこで、前回の抗議文では私は以下のような要求を出しましたが、

******************(前回の要求)*********************
1.ただちに本書を回収すること。もしくは正誤表を在庫およびすでに書店に出ているすべての本に差し込むこと。

2.大江氏は自分を「化学史学会会員」と明記している以上(尚、シービンガー著『科学史から消された女性たち』の翻訳者の内、小川眞里子氏と家田(現姓:中島)貴子氏、そしてラヴワジエ夫人の論文を書いた川島の3人も化学史学会の会員である)、まず『化学史研究』に謝罪文を載せること。他に科学史研究者や科学者(特に女性科学者)が多数学会員であるような学会誌にも謝罪文を載せること。

*************************************************

これを次のように変更させていただきます。

1.ただちに本書を絶版・回収すること。また講談社は大江氏のもうひとつのブルーバックス『早すぎた発見、忘れられし論文』においても、同様の問題がないかどうか調査し、もし同様の問題が発見された場合はただちにこちらの本も絶版・回収すること。

2.以上のことを『化学史研究』他、主要な科学史、科学一般の雑誌、また朝日・毎日・読売の三紙で公表し、被害者に対し公的に謝罪すること。

 わたくしはこの問題を色々なマスコミ関係者と話しあったのですが、皆が一様に「現在の日本の出版業界の低迷を象徴するような事件」とコメントしておりました。この十年で出版業界は完全に様変わりしたというのが彼らの一致した見解でした。ブルーバックスはわたくしの高校時代の愛読書でした。このシリーズはどれほど私やその世代の若者の、科学への夢をかきたてたことでしょう。しかしもはやあの「ブルーバックス」はどこにも存在しないのだと、今回痛切に思い知らされました。

top▲



(8)十川の抗議文その2(2月17日付)

大江秀房著『科学史から消された女性たち』に関する
回収・絶版・謝罪要請書

株式会社講談社 代表取締役社長
野間佐和子 様

貴社刊行のブルーバックス『科学史から消された女性たち』について、編集部の小沢様宛に出した手紙(1月26日付、以下「質問状」)に対する回答書(2月8日付、以下「回答書」)を受け取り、チェックしたところ、 同書は Nobel Prize Women in Science の著者、Macgrayne 氏の著作権を侵害していることが発覚いたしました。

すみやかに回収・絶版処置をとられるとともに、朝日・毎日・読売新聞に、「回収・絶版の告知と、消された女性科学者・科学史家への謝罪」広告を出されるよう、要請いたします。

「回答書」によると、“サンディエゴのお母さん”という表現は、「小川眞里子氏の『うらやましい人』に目を通したさい、……ヒントを得た」とのこと。
(「質問状」で小川眞里子氏のエッセイ「10人の女性ノーベル賞受賞者」の執筆者・タイトル隠蔽も問題だと指摘したにもかかわらず、小沢氏は無神経にもエッセイ集タイトル『うらやましい人』と記述。)
チェックしてみると、「ヒント」どころか小川眞里子氏のエッセイから前後の文章を丸盗りしていることが明かになりました。

さらに「回答書」は「邦訳書を知ったのは……連載……を書き終えた後のことで、今回の書籍化にあたっては、翻訳の影響を受けるのを避けるため、敢えて目を通さなかった」と釈明。

大江氏の本文とNobel Prize Women in Science の訳書『お母さん、ノーベル賞をもらう』をざっと付き合わせてみたところ、中村桂子氏監訳による訳書をチェックすれば防げたミスが多々あり、訳書を見なかったのは確かだろうと判断いたしました。

しかし、呉健雄(チェン・シュン・ウー)やジョスリン・ベルなどは、Nobel Prize Women in Science からの盗用が目に余ります。 ここまで盗っていたら、確かに訳書の存在を明かせないだろうと納得しました。

(☆『お母さん』の呉健雄の章の末尾にあげられた呉の言葉!
「発展に対する大きな障害は、かつても今も、何の罪もないように見える伝統というものなのです」
大江氏はこういう肝心な言葉を盗ろうとはしません。)

御社の自浄作用を頼りに小沢氏宛に「質問状」を送付いたしましたが、とても満足できる「回答書」はいただけず、事態はさらに深刻であり、国際的な著作権侵害問題であることが明らかになりました。 「盗られた」被害者がほかにも多数潜在していることも想定されます。

本書が巷にあるかぎり、「消された女性たちを救うふりをしながら、リアルタイムで女性科学者・科学史家の仕事を消す」蛮行がまかりとおることになるのです。 早急にご英断をくだされますよう、切にお願い申しあげます。

2006年2月17日
工作舎代表取締役社長 十川治江

top▲



(9)十川によるメーリングリストへの投稿(2月27日付)

緊急のお願い

◎科学史から消された女性たち事件(転載自由)

工作舎の十川と申します。 大江秀房著『科学史から消された女性たち: ノーベル賞から見放された女性科学者の逸話』(講談社ブルーバックス、2005、以下『大江本』)は帯に「科学は男だけのものなのか?」と立派なスローガンを掲げながら、内外の(主に)女性研究者・翻訳者の地道な仕事を剽窃・隠蔽した一著であることが明かになりました。

当MLのみなさま、お手数ですが、ぜひ講談社社長宛に抗議文をお送りくださいますとともに、各種メディアでもこの事実をお披露目くださいますよう、お願い申しあげます。

1 『大江本』はロンダ・シービンガー著/小川眞里子他訳『科学史から消された女性たち』(工作舎)のタイトルおよびテーマを剽窃しながら、この「ジェンダーと科学」の名著の存在を示さない。

2 『大江本』の冒頭の総論は、小川眞里子著『フェミニズムと科学/技術』(岩波書店)および同氏のエッセイ「10人の女性ノーベル賞受賞者」(03年ベストエッセイ『うらやましい人』文藝春秋、収録)の論旨および文章を剽窃。典拠に『フェミニズムと科学/技術』をあげるのみで、エッセイの著者名とタイトルを隠蔽。

3 『大江本』の呉健雄(チェン・シュン・ウー)とジョスリン・ベルの章は、シャロン・バーチュ・マグレイン著/中村桂子監訳『お母さん、ノーベル賞をもらう』(工作舎)の原著からかなりの部分を盗用。かつ邦訳書の存在を隠蔽。

4 『大江本』のキャロライン・ハーシェルなど19世紀以前の記述は、マーガレット・アーリク著/上平初穂他訳『男装の科学者たち』(北海道大学図書刊行会)からかなりの部分を剽窃。

5 『大江本』のラボアジエ夫人マリー=アンヌの項は、川島慶子氏の論文「マリー・アンヌ・ラヴワジェ」を参考にしながら、著者名・論文名を隠蔽。これらの研究成果をまとめた同氏の著書『エミリー・デュ・シャトレとマリー・ラヴワジエ:18世紀フランスのジェンダーと科学』(東京大学出版会)も無視。また上記『男装の科学者』および、中川鶴太郎著『ラヴォアジェ』(清水書院)からも剽窃。

6 『大江本』はアインシュタインの最初の妻ミレヴァ・マリッチを取りあげながら、彼女の科学的貢献を初めて全世界に知らしめたデサンカ・トルブホヴィッチ=ギュリッチ著/田村雲供他訳『二人のアインシュタイン』(工作舎)については、「ユーゴスラヴィア人女性伝記作家デサンカ・ツルブオヴィッチ=ギュリック」の「著書」にふれるだけで、原著名も邦訳名もあげず、女性訳者たちの訳業を無視。

☆「ジェンダーと科学」についてポピュラーな書物が出版されることは、本来でしたら悦ばしいことですが、著者みずから本の趣旨にはずれた行為をするのは、許せません。2月17日付で講談社社長宛に『大江本』に関する「回収・絶版・謝罪要請書」を送付しましたが、27日現在、何の返答もありません。
どうかご支援賜りますよう、お願い申しあげます。

top▲



(10)十川によるメーリングリストへの再投稿(3月1日付)

みなさま

工作舎の十川です。
この一件、一足飛びに「回収・絶版・謝罪」要請にいったわけではありません。以下に経過を報告するとともに、『大江本』の総論にあたる「序章」が 小川さんの「10人の女性ノーベル賞受賞者」からいかに「盗られた」かを示します。 世に「怪しい本」はたくさんありますし、一般向けの本で出典を省略する場合ももちろんございます。しかし、文献をあげながら、いちばん肝心な典拠を示さなかったのは以下の経過から、「盗用」を隠蔽するためと判断いたしました。
よろしく吟味ください。

1 発売時、『大江本』がシービンガーの著作タイトルと同じことに唖然。 しかしタイトルに著作権はないので、歯がみするのみ。

2 『大江本』の総論が小川眞里子氏のエッセイから「借用」され、典拠が誠実に明かされてないことが発覚。文献を示していながら、とりわけ重要な「ジェンダーと科学」に関する女性研究者・翻訳家の仕事(とくに絶対参照したはずの『お母さん、ノーベル賞をもらう』は原著をあげるのみ)を 無視・隠蔽するのは不誠実との手紙を編集部宛に送付(1月26日)。
https://www.kousakusha.co.jp/KEC/mp071.html

3 講談社編集部より「回答書」として、以下の主旨の返答(2月8日)。 シービンガーの著作の存在に気づきながら絶版と思い込んで出版したことのお詫び、しかし内容は借用していない。
・小川氏のエッセイ集『うらやましい人』は確認のために目を通しただけ。
・『お母さん、ノーベル賞をもらう』を知ったのは連載(『未来材料』)を書き終えた後のことで今回の書籍化にあたっては、翻訳の影響をさけるため敢えて目を通さなかった。
・川島氏の著作『エミリー・デュ・シャトレとマリー・ラヴワジエ:18世紀フランスのジェンダーと科学』と『二人のアインシュタイン』については、不勉強で知らなかった。

4 『お母さん、ノーベル賞をもらう』と『大江本』をつきあわせてみたところ、『お母さん』を参照すれば防げた誤訳が多々見つかり、たしかに参照していないと判断。
しかし、呉健雄(チェン・シュン・ウー)とジョスリン・ベルの章は『お母さん』の 原著Nobel Prize Women in Science からストーリーの大半を丸盗りしているこ とが発覚。
小川氏のエッセイからも借用ではなく「盗用」であると判断。 ほかにも19世紀以前は、『男装の科学者たち』からかなり盗用していることも発覚。『未来材料』の連載は、ほとんどが盗用・パッチワークからなされていたことも発覚。

5 講談社社長宛に「回収・絶版・謝罪要請書」を送付(2月18日)。
◎小川眞里子「10人の女性ノーベル賞受賞者」(03年ベストエッセイ『うらやましい人』文藝春秋、収録)
…… このような女性科学者に対するダブル・スタンダードは、ノーベル賞受賞時の彼女たちの報道によく表れていた。男性の受賞者に対しては才能の非凡さや研究への没入や集中力が賞賛されるのに対し、女性の受賞者には、世界的な科学研究のみならず普通の女らしい仕事についても有能であることが強調されてきた。したがって男性科学者が実験室や研究室で写真に収まったりするのに対し、女性研究者は台所で写真が撮られたりすることになる。新聞の見出しも、メイアーのときは「サンディエゴのお母さんノーベル賞受賞」、ホジキンのときは「イギリスの妻、ノーベル賞受賞」といった具合であった。こうした傾向はフェミニズム運動が盛んになっても衰えることはなく、一九七七年のヤーロウの受賞のときも、「彼女は料理し、掃除し、ノーベル賞をとった」という見出しが紙面を飾った……
 こうしたことはその時代、才能の大きさからノーベル賞の呼び声が高かったにもかかわらず受賞に至らなかった女性、たとえばリーゼ・マイトナーやロザリンド・フランクリンがいずれも独身であったことと表裏をなしている。ドイツの核物理学者マイトナーの名は共同研究者オットー・ハーンの名とともに、一九二〇年代から三〇年代にかけて何度もノーベル賞候補に挙げられ、一九三九年の核分裂理論の解明は彼女の評価を決定的にするはずのものであった。しかしノーベル賞は四四年にハーンが単独で受賞し、マイトナーはその栄誉に浴することなく六八年に八九歳の生涯を閉じた。……
……それというのも独身女性として初めて、バーバラ・マクリントックがノーベル賞を受賞することになるのは……
 マクリントックも含め八〇年代に受賞した三人の女性は、いずれも医学・生理学賞の受賞であったが、奇しくもみな独身であった。しかも彼女たち三人の受賞年齢が、マクリントック、リタ・レヴィ=モンタルチーニ、ガートルード・エリオンそれぞれ八一歳、七七歳、七一歳という高齢であることは意味深長である。彼女たちの業績評価に年月を要することがあったとしても、またノーベル賞委員会が評価にいっそう慎重になってきたことがあったにしても、キュリー母娘が三〇歳代で受賞し、その後の女性が五〇歳代で受賞していることを考えると、過去において彼女たちの受賞が見送られてきた可能性は否定できない。

◎『大江本』
……不思議なことに、男性受賞者であれば、才能の非凡さが賞賛され、少々常識はずれの言動もかえって天分の証として許容されるのに、女性の受賞者に対しては科学研究に加えて“普通の女らしい仕事”についても有能であること、もっと言えば「妻であり母であること」が要求されていたのだ。
それを象徴するかのように、マクリントック以前の女性受賞者に対して当時の新聞は、メイヤーのときは「サンディエゴのお母さんノーベル賞受賞」、ホジキンのときは「イギリスの妻、ノーベル賞受賞」という見出しをつけ、一九七七年に受賞したヤーロウ夫人のときも、「彼女は料理し、掃除し、ノーベル賞をとった」という見出しを掲げていた。……
 もう一つの有名な例は、ロザリンドより四〇年ほど先に生まれたオーストリア人の核物理学者リーゼ・マイトナー(一八七八〜一九六八)である。彼女は共同研究者オットー・ハーンと共同であるいは単独で、一九二〇年代から三〇年代にかけて三度もノーベル賞候補に挙げられていた。一九三九年に発表した核分裂に関する最初の理論は、彼女の評価を決定的にしたはずであったが、ノーベル賞は一九四四年にハーンの単独受賞となった。……
……独身女性として初めてノーベル賞を受賞したバーバラ・マクリントックが、同世代のメイヤーやホジキンの受賞から二〇年遅れたのもそのことを物語っている。  さらに、マクリントックに続く二人の独身受賞者についても、その受賞年齢に注目すると、レヴィ=モンタルチーニが七七歳、エリオンが七一歳というように、いずれも高齢であることもそれを裏付けている。キュリー母娘が三〇歳代で、その後の四人が五〇歳代で受賞したことを考えると、やはり独身三人の受賞が過去において検討されながらも見送られてきた可能性は高い。

top▲



(11)小川によるメーリングリストへの投稿(3月20日付)

今回の講談社事件について、講談社に抗議文を送った小川眞里子です。

『科学史から消された女性たち』の絶版・回収に関係して、一言私もなにか述べなくてはならないと思い、このような場に書くことにしました。おそらく、今回の本の序章には私の過去の仕事がもっとも関係していると思いますし、工作舎社長十川 治江さんだけを矢面に立たせて知らぬ振りというわけにもいかないと考えました。 一般のML読者には分からない事情をご紹介し、今回の件に関する誤解を解くことに 役立つことが出来ればと思います。

(1) 著作権とは直接関係しませんが、シービンガーのMind Has No Sex? というわずか4単語からなる原著に、「科学史から消された女性たち」というナラティヴな優れたコピーライティングを提案して下さったのは、当時まだ1編集者であった十川さんです。「科学と女性」という新しい学問分野に着目し、その分野の数多くの優れた著作を日本に紹介し普及させる上で、工作舎の十川さんが果たしてこられた役割は計り知れないものがあります。

(2) 序章を読んだとき、自分が過去に書いた内容とよく似ていると思いました。そこでまず、大江氏自身が自著の前提となったと紹介している『未来材料』の連載記事23回分をすべて見てみました。連載初回の一頁目は私の『フェミニ ズムと科学/技術』からの切り貼りとしか言いようのないものでした。そこを出発点として、私がその後に書いた「10人の女性ノーベル賞受賞者」もふくめ、丹念につきあわせ作業を行い、大江氏の著述に非常に多くの一致を見い出しました。(ML上では、東本さんが一部をご紹介下さり感謝しています。)

(3) 本書はいかにも女性研究者を応援するがごとく謳っていますが、精査していくと全く裏腹な捻れが随所にあります。高橋準さんが鋭くご指摘くださったように、大江氏にはこのテーマを手軽に借りてきた様子が認められます。そして盗用の源を隠蔽しようとしているのではないかと疑いたくなる工夫が施されています。たとえば小川の文献は、序章にのみ深く関係しているものですが、文献は序章には上げられていません。また照合が大変な単行本では書名を上げても、短い論文やエッセーになると、著者名や論文名は明らかにされていません。

(4) 講談社は、大江氏の本を絶版・回収としたのですから、大江氏に非があったことを自ら認めたのです。それをもって一般のML読者にとってこの事件は終わったものだと考えられがちです。しかし私にとっては、まだ明確にされるべき 事柄は残っています。講談社は私に関係する部分からの盗用・剽窃については一切語りませんし、編集者への最初の質問状に対する無責任で失礼な返答、抗議文に対する不誠実な応対は納得できないものです。十川さんが抗議文を送ってから20日間 も講談社からは何の説明もありませんでした。私が送った抗議文については未だに返事が来ません。

 講談社ときわめて対照的なのは『未来材料』編集部です。連載初回の最初の頁と私の著作の対応を示す資料を送って編集方針を伺いましたところ、即刻応対がされ、吉田社長をはじめ編集関係者から誠実な謝罪があり、また大江氏の連載を掲載した雑誌バックナンバーをすべて絶版にする旨が連絡されてきました。多くの材料系の論文が掲載されているのですから、想像を絶する措置であり、さらに4月号には謝罪と告知文が掲載されます。

 ひとりの著作権者として直接関係するのは(2)(4)のみです。しかし講談社事件としてとらえるべき全容は、(1)(3)にも関係しており、けっして著作権者のみの問題とは考えていません。盗用・剽窃などという不穏当なことを言うことに、あるいは権利ばかりを主張することの「見苦しさ」について、私もいささか意識しないわけではありません。しかし、自分が考えたわけでもないことを、まさしく自分の考えたごとくに書くことは、たとえ文献を上げたとしても許されないことであると思います。

 こうしたことを顔の見えない不特定多数の人に向かって書くことに不安を覚えます。しかし多くの方が議論して下さることにより、私も多くを学ばせて頂きました。またこのMLから大きな励ましも受けましたので、ここに感謝申し上げたく思います。  小川眞里子

top▲



+ CLOSE +