工作舎ロゴ

連載読み物 Planetalogue



ライプニッツ通信II

第6回 日本ライプニッツ協会第7回大会

樹々が色づきはじめた2015年10月31日(土)と11月1日(日)の2日間、日本ライプニッツ協会の第7回大会が帝京大学八王子キャンパスで開催されました。

第I期『ライプニッツ著作集』全10巻完結からちょうど10年後の2009年に設立された日本ライプニッツ協会は、著作集翻訳の中枢を担った酒井潔、佐々木能章の両氏が設立発起人、谷川多佳子、米山優、松田毅各氏はじめ10名の研究者が賛同人となって旗揚げし、毎年秋に大会を開いてきました(以下敬語略)。

哲学から宗教思想、社会学、文学、美学、図書館学、情報科学、論理学、数学、自然学まで、キャリアや研究テーマ、関心も多様な会員は2015年4月22日現在、148名。設立以来、酒井潔氏が会長をつとめ、世界のライプニッツ研究のセンターであるハノーファーのライプニッツ・アルヒーフやG・W・ライプニッツ協会、およびスペイン、イタリア、北米、イスラエル、イベリア・中南米、ルーマニアなど各地のライプニッツ協会と連携しながら国際会議やシンポジウムを開催し、研究発表や共同研究の場を提供しています。

隔年で機関誌『ライプニッツ研究』(Studia Leibnitiana Japonica)を刊行し、大会などの招待講演で発表された海外の研究者の論考の特別寄稿、および協会員の研究論文、海外のライプニッツ研究動向などを収載しています。各論文には欧文(英/仏/独)の抄録が付され、すでに第3号まで上梓。同誌に発表された論考から優れたものには「日本ライプニッツ協会研究奨励賞」が授与され、第1回は池田真治氏(「想像と秩序:ライプニッツの創造力の理論に向けての試論」)、第2回は稲岡大志氏(「実体の位置と空間の構成:ライプニッツ空間論の展開の解明に向けて」)が選ばれました。

大会開催校は、第1・2回は事務局のおかれた学習院大学、以後順に神戸大学、東京女子大学、慶応義塾大学というように、協会役員の第1世代の所属校になっていましたが、去年の第6回大会は富山大学に移り、第1回日本ライプニッツ協会研究奨励賞受賞者の池田真治氏がホスト役となって次世代への道を拓きました。

第7回大会も次世代の長綱啓典氏がホスト役。同氏は協会創立時より献身的に事務局を担ってきた方。学習院大学はじめ複数の大学の非常勤講師をへて、2011年3月には博士論文『ライプニッツにおける弁神論的思惟の根本動機』を晃洋書房より上梓、同年4月に帝京大学専任講師に就任し、今回の大役を担うことになりました。

大会1日目の特別講演は、ソウル国立大学のイー・スッチェ氏による「ライプニッツの因果的リアリズム:モナドの変化の因果的構造」(司会:松田毅氏)とパリ第一大学のポール・ラトー氏による「弁神論というライプニッツのプロジェクト:理論的および実践的争点」(司会:酒井潔氏)。

2013年に設立されたフランス語ライプニッツ研究協会会長をつとめるラトー氏の講演テーマは、日本ライプニッツ協会設立発起人のお一人、佐々木能章氏が公私ともにご多用な時期に精魂込めて訳出した『弁神論』であり、その翻訳に触発されて博士論文に取組んだというホスト役の長綱氏の著書の主題にほかならず、とりわけ印象的でした。ラトー、佐々木、長綱の3氏ともに、『弁神論』のテーマをたんに宗教的・神学的なものとみるに留まらず、法学や人間学の洞察もふくんだアクチュアルな視点から読み解く姿勢をつらぬいている点で、世界最前線のライプニッツ研究動向を示していました。

大会2日目の長綱氏司会による新刊紹介のコーナーで紹介されたのは、下記の2著。
◎町田一『初期ライプニッツにおける信仰と理性:「カトリック論証」注解』(知泉書館)

◎第II期『ライプニッツ著作集』第1巻『哲学書簡』
『哲学書簡』スピノザ関連の訳者でもある町田一氏は、中世哲学会と日程が重なり、書面による自著紹介となりましたが、『哲学書簡』はベール関連の訳者でもある池田真治氏により簡にして要をえた内容プレゼンがありました。

1988年の刊行開始から全10巻完結までに足かけ12年かかった第I期『ライプニッツ著作集』を進めながら、故竹田篤司氏や酒井、佐々木、谷川各氏らと「日本ライプニッツ協会」設立を夢物語として話していたことが昨日のように想い出されます。第I期『ライプニッツ著作集』が出たことで国際的にも活躍する新しい研究者が台頭し、次世代を指導しているさまを目の当たりにできて、去年の富山大会につづき、ひときわ感慨深い大会となりました (十川治江)。


*ラトー氏は、大会前の10月29日(木)には招へい校の学習院大学にて「ライプニッツと可能的諸世界の最善」、また大会後の11月3日(火)には筑波大学東京キャンパスにて「ライプニッツの〈省察〉について」のテーマで精力的に講演。
**日本ライプニッツ協会の詳細および入会案内などは以下のHPを参照。 →日本ライプニッツ協会





ALL RIGHTS RESERVED. © 工作舎 kousakusha