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科学史から消された女性たち[詳細]

「知性に性差なし?」
17世紀のデカルト主義者プーラン・ド・ラ・バールは、「知性に性の区別なし」と書いて、

女性が男性と同様に社会/文化の世界で活躍する道を開いた。
にもかかわらず、その後の科学革命の歴史には、女性科学者の名はほとんど登場しない。なぜか?
科学の発展を陰で支えながらも、歴史の表舞台に登場できなかった女性たちの優れた業績を次々に紹介し、
彼女たちが科学の表舞台から消されていった社会的背景や、
当時の性差についての価値観を明らかにする。
皮肉にも、17世紀〜18世紀のジェンダーの位置を明確にし
「性の補完性理論」を生みだしたのは、科学そのものだった!




■目次より

第1章 制度的概況
    修道院と大学
    ルネサンスの宮廷
    科学アカデミー
    周辺部における女性
    パリのサロン
    女性のアカデミー

第2章 貴族のネットワーク
    数学についてのおもしろい事情
    科学のネットワークにおける貴族女性
    自然哲学者マーガレット・キャベンディッシュ
    キャベンディッシュ、彼女はフェミニストか?
    エミリ・デュ・シャトレと物理学

第3章 手工業的伝統における女性科学者
    マリア・シビラ・メリアンと虫たちとのあれこれ
    ドイツにおける女性天文学者
    マリア・ヴィンケルマンとベルリン科学アカデミー
    アカデミーの天文学者にならんとす
    ギルドの伝統と専門的な科学の衝突
    アカデミーへの一時的な回帰
    見えざる助手

第4章 女性の伝統
    産婆
    人間の健康と楽しみのための料理の本
    排斥の正当性

第5章 学術文体の拮抗
    科学が女性であった時
    寓画を読む
    男性の寓意画
    女性イコンは実在の女性を表現したか
    女性イコンの衰退
    学術文体の拮抗
    サロンの攻撃:男性的文体?

第6章 宇宙論の拮抗:自然の秩序におけるセックスとジェンダー
    古代宇宙論:不完全な男性としての女性
    ルネサンスと近代初期のフェミニズム
    デカルトとロック:慇懃な無視?
    プラトンと匿名のイギリス婦人
    近代解剖学と性差への問い

第7章 柔肌に秘められた女らしさ:性差の科学的探求
    女性骸骨の登場
    理想の創出:「完全な男性」と「完全な女性」
    男、万物の基準
    性と人種の比喩

第8章 補完性の勝利
    家庭の責務
    肉体第一主義者が示した性の補完性の根拠
    補完性の政治的基盤
    医学的証拠の不均衡
    男らしさ、社会的価値の尺度
    科学からの女性の追放
    大衆の科学とヴァーチュオーソの衰退
    植物学は女性的であったか

第9章 閉ざされた公けの道
    マリー・ティルー・ダルコンヴィル:「女性性差別主義」の解剖学者
    ドイツ初の医学博士:ドロテア・エルクスレーベン
    ドイツ初の女性博士:ドロテア・シュレーツァー
    家庭内の助手:キャロライン・ハーシェル

第10章 女性の排斥と知識の構造
    科学は価値において中立か
    特権的な科学の声
    規範の構築:カントの場合
    性差の科学的保証




■著者紹介:ロンダ・シービンガー Londa Schiebinger

ペンシルヴェニア州立大学のエドウィン・E・スパークス教授職 歴史学教授。1995年度まで同大学の「科学と工学における女性(WISE)研究所」の初代所長をつとめる。
邦訳著書はほかに『女性を弄ぶ博物学』、『ジェンダーは科学を変える!?』(工作舎)がある。
グッゲンハイム財団、ロックフェラー財団、ウッドロー・ウィルソン財団、国立科学財団などさまざまな奨学金をつぎつぎに獲得して、科学史と女性史の重なり合う領野の研究を精力的にすすめている。



■関連書籍

女性を弄ぶ博物学 ロンダ・シービンガー 3200円 ←18世紀の実態
ジェンダーは科学を変える!?  ロンダ・シービンガー 2600円 ←同時代の実態
お母さん、ノーベル賞をもらう  S・B・マグレイン 2800円 ←20世紀の女性科学者
二人のアインシュタイン  D・トルブホヴィッチ=ギュリッチ 2400円 ←最初の妻
ジェンダーの神話  アン・ファウスト-スターリング 2816円 ←性差の科学の偏見
セックスの発明  トマス・ラカー 4800円 ←医学史・社会史の実態
女性を捏造した男たち  シンシア・E・ラセット 3200円 ←19世紀の実態
セックス&ブレイン  ジョー・ダーデン=スミスほか 1900円 ←流行りの脳の性差
NASA/トレック  コンスタンス・ペンリー 1900円 ←スペースシャトル事故後の噂
自然の死  キャロリン・マーチャント 3800円 ←エコ・フェミニズム





■書評

中村桂子氏(『日本経済新聞』1992年12月6日)
 …本当に女性は科学に向いていないのか。その問いに対して著者は、否という答えを出す。近代科学が成立する時に女性がそこからいかに排斥されたか、それにも拘わらず実際には女性によっていかに素晴らしい研究が行われたかを示しながら。女性という切り口で科学の歴史を見るという新しい試みが見せてくれる事実は興味深く、著者の論旨は明快で説得力がある。
 たとえば17世紀後半のドイツの天文学者の14%が女性という記録がある。他分野でもかなりの数の女性が活躍していたに違いない。その中にはもちろん貴族もいるが、その多くは高級職人層。昆虫学者メリアンは父親の工房で銅板画で昆虫を描いているうちに変態などを詳細に調べるようになる。知的好奇心と独立心に満ちた行動が生活に密着しているところが何とも魅力的だ。このほか、夫と共に天文学に打ち込む人(もっともその成果は夫だけの名で発表されるところが問題だが)など、思わず声援を送りたくなる例が豊富に出されて楽しい。
 しかし、大きな流れは、科学自体が性差を扱い、大きな頭の男子を産める骨盤の広い体型が女性らしいという価値観をつくるような動きをするのだ。そして、御存知キュリー夫人でさえ、パリ科学アカデミーの会員にはなれなかったという事態が続く。のびのびした女性たちの活躍を知ったうえで改めてこの事実を知ると、これまで以上に無念に思える。科学自体の見直しも含めて女性が活躍すべき場がここにあるぞというのが今の気持ちである。

金子務氏(『東京新聞』1993年1月10日)
 
…本書で列挙する舞台の陰の女性たち、自然哲学者のマーガレット・キャベンディッシュも、数学者のエミリ・デュ・シャトレも、昆虫学者のマリア・メリアンもついぞ聞いたこともない名である。「消された」のではなく「消えていた」人たちだ。それだけでも、本書はフェミニズム運動の確たる成果になった。
 科学革命の初期には貴族女性が多く活躍したが、科学の学会の制度化とともに女性が締め出され、男性の仲立ちを余儀なくされる。
 伝統的な女性の職業・産婆が健康管理の場面から追い出され、学問の男性的スタイルを強調するベーコン、デカルトさらにはルソーらの影響が強まる。一方で性差が解剖や骸骨図のレベルでも強調され、それが男女の社会的補完関係の根拠とされる。
 最後に、著者は科学がジェンダーに中立だったかと問いかける。答えは否、制度的排除・権威主義的抑圧・研究主題の組織的締め出しがあったからだ。大方の男性にとって挑発的な書物である。しかし良薬は苦いものだ。男女差を強調する社会よりも、人間の多様性を尊重する社会への体質変革の一服なのだから。



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