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桜伝奇[詳細]
郷里の小学校の校庭に咲くのはソメイヨシノ……。
遥か過ぎ去った幼い日々のざわめきとともに甦る。
樹齢千年を越えて咲く淡墨桜の美は、その名が示すように貴く、はかない。
ダムの底に沈ませるのはしのびないと、移転が実施された桜がある。
時のめぐりを知らせ、人々の心をいやし続けてきた町の桜の老巨木がある。
雅の象徴、シダレザクラに映る華麗な歴史、哀しい物語……。
そしてまた人は、桜へ向う。
遠くヤマザクラに逢うために。
日本人の「心と桜」の深淵を尋ねる十二カ所のフィールドワーク。



■目次より

巻頭カラー 撮影=渡辺典博+岡田正人
第1章 真鍋の桜 [茨城県]
  1 校庭の桜の木
  2 ソメイヨシノ
  3 戦争と桜と日本人

第2章 根尾谷 淡墨桜 [岐阜県]
  1 齢一千年を越えてなお
  2 継体天皇ゆかりの桜
  3 薄墨・菊花石・天皇

第3章 醍醐桜 [岡山県]
  1 “赤ケット”の記憶
  2 後醍醐天皇お手植えの木
  3 水神・守護霊・春の木

第4章 山高神代桜 [山梨県]
  1 樹齢二千年
  2 老樹に会う
  3 “咲く”は老いの証

第5章 石部桜 [福島県]
  1 会津五桜
  2 幸の里の血潮
  3 白虎隊の少年たちを想う

第6章 荘川桜 [岐阜県]
  1 御母衣(みほろ)ダムの建設
  2 二本の老樹の移動計画
  3 荘川桜友の会

第7章 常照皇寺の九重桜 [京都府]
  1 京の都に「雅」を求めて
  2 今は力なく色褪せて
  3 「梅」か「桜」か

第8章 伊佐沢の久保桜 [山形県]
  1 大地の「角」
  2 田村麻呂と三本の桜
  3 「ミヤコ」対「ヒメ」

第9章 高麗神社のしだれ桜 [埼玉県]
  1 遠く「高句麗」にさかのぼる
  2 奥武蔵の風景
  3 桑畑に輝き、桜に心を癒す

第10章 桜株 [東京都]
  1 オオシマザクラへの船旅
  2 火山の島の生命力を映す
  3 「役の行者」と「桜株」

第11章 三春 滝桜 [福島県]
  1 桜久保のはなやぎ
  2 日本人の心と「シダレ」
  3 ねがはくは花のしたにて……

第12章 狩宿の下馬桜 [静岡県]
  1 最古最大のヤマザクラ
  2 霊峰富士とサクラ
  3 宣長が感じた光の中へ

付録 牧野和春選 桜の老巨木一覧




■著者紹介:牧野和春 Kazuharu Makino

1933年、鳥取県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。ジャーナリストをへて1968年、牧野出版を創立。
著書は『桜の精神史』『樹齢千年』『異相巨木伝承』(以上、牧野出版)、『巨樹の顔』(共著・朝日新聞社)、『本朝巨木伝』(工作舎)、『森林を蘇らせた日本人』(NHKブックス)、『鎮守の森再考』(春秋社)、『巨樹と日本人』(中公新書)など多数。
全国巨木フォーラムを支援して、講演活動やフィールドワークのため日本各地を飛び回る。全国巨樹・巨木林の会理事。ふるさと新構想研究会代表。




■関連図書

本朝巨木伝 日本人と「大きな木」のものがたり 牧野和春 2200円
鬼から聞いた遷都の秘訣 地震・風水・ネットワーク 荒俣宏+小松和彦 1600円
妖怪草紙 あやしきものたちの消息 荒俣宏+小松和彦 2800円
経済の誕生 富と異人のフォークロア 小松和彦+栗本慎一郎 1456円
怪奇鳥獣図巻 大陸からやって来た異形の鬼神たち 伊藤清司=監修・解説 3200円
地下他界 蒼き神々の系譜 萩原秀三郎 2400円
縄文の地霊 死と再生の時空 西宮紘 2900円
鬼神の世紀 「いさなき」空間と弥生祭祀 西宮紘 3200円
滅びゆく植物  失われた緑の楽園 J-M・ペルト 2600円
植物の神秘生活 緑の賢者たちの新しい博物誌 P・トムプキンズ+C・バード 3800円




■書評 

◎浦田憲治氏(『日本経済新聞』1994年3月13日)
「桜といえば、墓に桜の木を植えよ、と遺言書をしたためた本居宣長が有名だろう。小林秀雄はその著『本居宣長』の冒頭でここに注目して、宣長の気持ちをくみとっている。牧野氏もまた桜の花の表情をただ追うのではなく、桜の木を見続けてきた無数の日本人の心に想いを寄せ、日本人であることを再確認している。
 例えば茨城県土浦市の真鍋の桜。市内の真鍋小学校の校庭には、ソメイヨシノの巨木が五本並んでいる。県の天然記念物にもなっているその桜の樹々の周りでは、毎年四月になると新入生児童を迎えてのお花見集会が開かれる。牧野氏はその集会に立ち会いながら、郷里の小学校に咲いていた満開の桜や、はるか過ぎ去った幼き日々の思い出にふける。太平洋戦争と重なり、軍国教育一色だった時代。静かに咲く桜の花には、激動の時代を生き抜いてきた人々の想いが塗り込められていると感じるのだ。
 あるいは有名な岐阜県根尾谷の淡墨桜。昭和56年の晩秋、実父をガンで失った牧野氏は、田舎での葬儀の帰りにこの老木を訪ねる。“底冷え”が身にしむ季節外れの谷間に、まるで霞網でも張ったように無数の細枝を空中にひろげた老樹。牧野氏はその物言わぬ不死鳥のような巨桜を前にして、神秘的な霊力にうたれる。父を亡くした気持ちも整理され、帰途につく。つまり桜には人々の心をいやす力があるというのだ」

(『岐阜新聞』1994年2月27日)
「巨木、老木には人を引き付ける何かがある。それが桜ともなればなおさらだ。……
 県内で取り上げられているのは淡墨桜と大野郡荘川村の荘川桜。淡墨桜の章では「継体天皇お手植えの桜」という言い伝えの由来に迫っていく。都と美濃、隣接する越前の道をたどりながら、「薄住み」が「淡墨」と結び付く過程を、“辺境”の人々の「都の文化への強烈なる幻視」が生み出した伝承としてとらえている。
 荘川桜の章では、「荘川桜は、現代の桜物語である」という著者は、御母衣ダム建設から集落の水没、桜移転の経過を記し、失われたものへの郷愁、現代の日本人の古里感が、この桜に凝縮されている─と語る。
 ほかに樹齢二千年の山高神代桜(山梨県)、常照皇寺の九重桜(京都府)などの名木が取り上げられている。いずれも全国巨樹・巨木林の会理事として活動を続ける著者の語る「民と桜花との根源的なかかわりの世界」に興味を引かせる」




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