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女性を弄ぶ博物学[詳細]
Nature's Body

目次著者紹介関連図書書評


これは科学か?ポルノか?

動植物の研究でも、人種の研究でも、
雌ならびに女性は男性研究者の好奇心の的であった。
人種の特徴に女性の美が基準に取られたり、
ホッテントットの女性のように見せ物にされたり。
博物学者も人類学者も解剖学者も、みんな男性であるがゆえに、
自分たちに都合の良いように様々に女性を扱ってきた。
誰が科学をするかにより、何が研究されるかが決まってくる。
これはきわめて政治的な問題である。
小川眞里子(訳者あとがきより)




■目次より

序文 自然に投影された性のいとなみ

第1章 植物の私生活
 新たなる分類法を求めて
 植物の(異性間の)セクシュアリティ
 科学における隠喩の使用
 リンネ、そしてエラズマス・ダーウィンによる植物の瞑想
 性差観の科学革命

第2章 なぜ哺乳類は哺乳類とよばれるのか?
 ママリアという用語の系統学
 名ばかりの哺乳類:雄と単孔目
 乳房はどれほど意義深いか?
 乳房と母乳:問題の多いイコン
 分類学におけるジェンダーの政治学

第3章 類人猿の男らしさ、女らしさ
 類人猿から人間を区別すること
 雌の性器の研究
 類人猿は、人間の雑種?
 慎み深さ:それは女性に普遍的なもの
 啓蒙時代の類人猿:オラン・ホートン卿

第4章 差異の解剖学
 人種と性の型を固定すること
 「例の威厳のあるあごひげ」
 コーカサス人種の謎
 女性が人種を形成する?

第5章 ジェンダーと人種の理論
 女性は鎖の上にいたのか?
 ホッテントットのヴィーナス
 新しい身体の政治学

第6章 誰が科学をすべきか?
 科学の起源は黒人か白人か?
 18世紀の教育実験

終章 扱いそこねられた自然の身体



■著者紹介:ロンダ・シービンガー Londa Schiebinger

長らくペンシルヴェニア州立大学歴史学教授を務めたあと、2004年よりスタンフォード大学科学史教授および同大学「女性とジェンダー」研究所所長。本書でフレック賞[科学社会学会]受賞。また女性歴史家として初めてアレクサンダー・フォン・フンボルト研究賞を受賞。
近世から現代にいたる科学とジェンダーのテーマを先鋭的に追究し、邦訳書は本書のほか、『科学史から消された女性たち』、『ジェンダーは科学を変える!?』『植物と帝国』がある。




■関連図書(表示価格は税別)

  • 植物と帝国  ロンダ・シービンガー 3800円 ←18世紀カリブ世界の植物探査の実態
  • ジェンダーは科学を変える!?  ロンダ・シービンガー 2600円 ←同時代の実態
  • 科学史から消された女性たち  ロンダ・シービンガー 4800円 ←17世紀の実態
  • セックスの発明  トマス・ラカー 4800円 ←医学史・社会史の実態
  • 女性を捏造した男たち  シンシア・E・ラセット 3200円 ←19世紀の実態
  • お母さん、ノーベル賞をもらう  S・B・マグレイン 2800円 ←20世紀の女性科学者
  • 二人のアインシュタイン  D・トルブホヴィッチ=ギュリッチ 2400円 ←最初の妻
  • ジェンダーの神話  アン・ファウスト-スターリング 2816円 ←性差の科学の偏見
  • セックス&ブレイン  ジョー・ダーデン=スミスほか 1900円 ←流行りの脳の性差
  • NASA/トレック  コンスタンス・ペンリー 1900円 ←スペースシャトル事故後の噂
  • 自然の死  キャロリン・マーチャント 3800円 ←エコ・フェミニズム
  • エラズマス・ダーウィン  D・キング=ヘレ 6500円 ←チャールズの祖父の破天荒な生涯



  • ■書評

    川島慶子氏(『科学史研究』1997年夏号)
    …リンネの分類法はまさに性の政治である。まるで詩を語るかのようなリンネの植物の交配の解説。伝統的な「四足獣」を追い払った「哺乳類(Mammalia: 乳房類)」という名称。当時の社会の実際の、あるいは理想とされた男女関係というコンテクストなくしては、この博物学者の乳房やおしべ、めしべへの執拗なこだわりは理解できない。自然の中に分類が刻印されているのではない。決めるのは科学を営む側なのだ。判断する側の内なる幻想こそが分類の基準を生みだすと言っていい。だからそのとき決定権を持っていた人間が誰なのかということが問題になる。そのカテゴリーにいた人間たちの無意識こそが「ポリティクスとしての科学」を動かす原動力となる。「誰が科学をすべきか」という繰り返される作者の問は「誰が科学をしてきたのか」「その結果はどうなったのか」ということを必然的にともなっている。…

    斎藤美奈子氏(『週刊朝日』1996年11月22日)
    「男は知性があって逞しく、女性は下等で慎み深いという性別観のもとで、博物学者たちは、発見された霊長類(オランウータンやチンパンジー)のメスを超不自然な「慎み深い」姿に描いたり、人間の優劣を男の「あごひげ」の有無で判断したり、ホッテントット族の女性に執拗な関心を示したり、相当ヘンなことをやっていた。多数の事例や図版を示しながら、白人男性ばかりで占められていた博物学の偏向と限界を、著者は鋭く指摘している。この本から私たちが学ぶのは、自然科学といえども社会規範やイデオロギーから自由ではいられない(どころかそれらを積極的に補完しさえする)という当たり前の事実である。18世紀的な発想は、どっこい今も健在だ。まったく昔の博物学は……なぞと呑気に笑ってる場合じゃないぞ。

    紀伊國屋書店・じんぶんや第四講
    「斎藤美奈子さんが選ぶ21世紀の女と男を考える本」  紀伊國屋書店サイトへ>>>




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