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代理としての作品

ミケランジェロ広場は建築家ジュゼッペ・ポッジ(1811〜1901)のデザインに従って整備された。フィレンツェが短期間イタリアの首都だった1865年から1870年までのあいだに、都市計画の一環として計画されたのである。ポッジは当初、この広場にロッジアを建て、ミケランジェロの代表作のコピーを収める個人美術館にする構想をもっていた。その正面中央には考える人のポーズをとるミケランジェロ座像を置こうと考えた。

しかし、広場に設置されたのは、すでに述べたように、ミケランジェロの代表作《ダヴィデ》のコピーだった。台座には、フィレンツェ、サン・ロレンツォ聖堂メディチ礼拝堂にある、ミケランジェロの制作した4体の寓意像のコピーがつけられた。そして、ロッジアは美術館ではなくカフェ・レストランとなり、現在にいたっている。

ここでは、モニュメント台座の銘と広場の名称に美術家の名前があるとはいえ、美術家は肖像の助けなしに代表作をもって同定、記念されている。ミケランジェロの代表作《ダヴィデ》はもはやそのアトリビュートではなく、ミケランジェロ自身とほとんど同一視されているのである。

ロッジアの建つ小高い地面の立ちあがりに1911年、ポッジの生誕百周年を記念して銘板がはめこまれた。そこには大文字で、「ジュゼッペ・ポッジ/フィレンツェの建築家/ふりむいてごらんなさい/これが彼のモニュメントです/1911」と書かれている。

この銘板を読んだ人がふりかえると、《ダヴィデ像》を見ることになる。《ダヴィデ像》はオリジナルを制作したミケランジェロのみならず、そのコピーを制作したポッジをも記念しているのである。そして、ポッジも、ミケランジェロ同様、肖像ではなく、その作品をもって記念されている。


《ポッジのための銘板》
《ポッジのための銘板》
1911 フィレンツェ、ミケランジェロ広場.


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