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ロダンと《バルザック像》

フランスの彫刻家オーギュスト・ロダン(1840〜1917)とその作品《バルザック像》のあいだにも、ミケランジェロ/ポッジと《ダヴィデ像》の関係に並行する一体化を確認することができる。

《バルザック像》は注文主のフランス文学者協会に受けとりを拒否されるという憂き目を見たが、ロダン没後の1926年、2体のブロンズ像として鋳造され、そのうちの1体が1939年、パリのラスパイユ通りとモンパルナス通りの交差点近くに建てられた。


ロダン《バルザック像》
ロダン《バルザック像》
1926 パリ、モンパルナス.

この像の台座には、バルザックへ/ロダンへA BALZAC/ A RODIN と記されている。これは、この像がバルザックに対してのみならず、それを制作したロダンに対しても捧げられていることを意味する。バルザックは肖像によって記念されているが、ロダンは、《ダヴィデ》におけるミケランジェロやポッジ同様、自分の作品をもって記念されている。

ロダンは1914年、バルザック像のポーズをとって写真を撮らせている。このことは、他者がロダンと《バルザック像》を重ねあわせただけでなく、ロダン自身、この作品に自己同定していたことを物語る。


《バルザックのポーズをとるロダン》
《バルザックのポーズをとるロダン》
  1914頃. 撮影者不明.

ドニの《セザンヌ礼賛》やフィレンツェのミケランジェロ・モニュメントでは、肖像ではなく、作品をもって美術家が礼賛、記念されている。肖像以上に作品を高く評価することは、肉体よりも精神が優越するという、プラトンにまでさかのぼる考えにつながる。この考えを美術作品の評価に適用することにも長い伝統がある。

実際、キケロは次のように問うている。偉人の肖像画や肖像彫刻は「魂を写したものではなくて、肉体を写したもの」だから、それよりも我われの最良の才能に助けられて苦労の末につくりだした「我われの魂や人格の像」、すなわち所業やその結果を残すことの方が意味深いのではないだろうか。






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